日本骨代謝学会

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禁煙によりヒト血清中のオステオカルシンおよび低カルボキシル化オステオカルシンの濃度は上昇する

Smoking cessation increases levels of osteocalcin and uncarboxylated osteocalcin in human sera.
著者:Yasuhiro Kiyota, Hiroyasu Muramatsu, Yuiko Sato, Tami Kobayashi, Kana Miyamoto, Takuji Iwamoto, Morio Matsumoto, Masaya Nakamura, Hiroki Tateno, Kazuki Sato, Takeshi Miyamoto
雑誌:Sci Rep. 2020 Oct 8;10(1):16845.
  • 禁煙
  • オステオカルシン
  • 低カルボキシル化オステオカルシン

清田 康弘

論文サマリー

 喫煙は癌や呼吸器疾患の危険因子として知られているが、骨代謝にも影響を与え、骨折や骨粗鬆症の危険因子として知られている。喫煙により骨折後の治癒が遅れ、遷延治癒となることが報告されている。また、喫煙により摂取されたニコチンが骨代謝に与える影響については、ニコチンの代謝産物であるコチニンと骨密度との間に負の相関があることや、ニコチン摂取によりOPGが低下し、RANKLが上昇することで、骨量が減少することが報告されている。一方で、禁煙が骨代謝に対して良い結果をもたらすのかどうかということや、喫煙により乱された骨の恒常性が禁煙により回復するのかどうかということは依然として分かっていない。

 われわれは禁煙の効果を調べるために、2つの臨床研究を行った。最初の研究では40歳以上の526名の女性を対象とし、閉経前、閉経後に分け、喫煙者、非喫煙者間の骨密度を比較した。閉経後女性において、喫煙者の方が非喫煙者よりも骨密度が低い結果であった。2つ目の研究では禁煙外来を受診した139名の喫煙者を対象とし、禁煙治療前後で骨代謝に関わる因子を比較分析した。その結果、骨形成マーカーである、オステオカルシンと低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)の血中濃度が禁煙後平均124日で有意に上昇していた(Figure 4)。このことから、喫煙による骨代謝への負の影響は禁煙後短期間で回復させることができることが分かった。

清田 康弘

また、動物実験では、野生型マウスに3週間連日ニコチンを皮下注射すると、骨密度が低下し、破骨細胞数が有意に増加した。しかし、その後ニコチンの休薬を行うと、TRACP5bが低下するとともに、骨密度が有意に上昇することが分かった(Figure 6)。

清田 康弘

 ヒトとマウスとで禁煙の効果が違う結果として現れたことの理由は明らかではないが、喫煙により乱された骨代謝が、禁煙することで回復することが示された。

 現在のところ、ヒトを対象とした研究で、なぜ禁煙後にオステオカルシンとucOCだけが上昇したかについての理由は分からない。しかし、オステオカルシンとucOCが他の骨代謝マーカーよりも早期に禁煙に反応するマーカーであり、骨に対する禁煙の効果を判定するのに適したマーカーである可能性が示唆された。

 喫煙による骨代謝への負の影響は禁煙により回復するため、骨の恒常性を回復させたり、骨粗鬆症のリスクを軽減するための方法として禁煙が推奨されるべきであると考える。

著者コメント

 喫煙が人体に与える影響については、過去にも多数報告がある。骨代謝についても喫煙は骨折や骨粗鬆症の危険因子として知られている。一方で禁煙が骨代謝に与える影響については未だ良く知られていない。医療現場で禁煙指導が行われることは多く、整形外科でも骨粗鬆症治療のためや骨折後の骨癒合を促進するために、外来で禁煙指導が行われている。しかし、禁煙指導が治療担当者の経験による指導にとどまり、科学的根拠に乏しいのが実際である。
 喫煙による骨代謝への負の影響が禁煙により回復すると考えられる、われわれのこの研究結果は、禁煙による効果の科学的根拠を提供していると考える。(慶應義塾大学医学部整形外科学教室・清田 康弘)