日本骨代謝学会

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オステオカルシンはアパタイト結晶の配向に必要であるが、糖代謝・テストステロン産生・筋量維持には必要でない

Osteocalcin is necessary for the alignment of apatite crystallites, but not glucose metabolism, testosterone synthesis, or muscle mass.
著者:Takeshi Moriishi, Ryosuke Ozasa, Takuya Ishimoto, Takayoshi Nakano, Tomoka Hasegawa, Toshihiro Miyazaki, Wenguang Liu, Ryo Fukuyama, Yuying Wang, Hisato Komori, Xin Qin, Norio Amizuka, Toshihisa Komori
雑誌:PLoS Genet. 2020 May 28;16(5):e1008586.
  • オステオカルシン
  • アパタイト配向
  • 糖代謝

森石 武史

論文サマリー

 成熟骨芽細胞から産生される非コラーゲン性蛋白であるオステオカルシン(osteocalcin : Ocn)は、ビタミンK存在下でGla化されアパタイト結晶と親和性を持つことから、石灰化に関連があると推測されてきた。しかし近年、Karsentyらは、Ocnノックアウト(KO)マウスの解析から、Ocnは骨形成を抑制し(Nature.1996)、非Gla化Ocnはホルモンとして働き、糖代謝・テストステロン産生・筋量維持を制御すると報告した (Cell.2007, Cell.2011, Cell.2016)。一方、LambertらのOcn KOラットでは海綿骨骨量は増加するが皮質骨厚は野生型ラットと変わらず、糖代謝異常も認められなかった(Disease Models & Mechanisms. 2016)。また多くの臨床研究で非Gla化Ocnと糖代謝との関係について意見が分かれている。そこで、私達はKarsentyらと同じ領域を欠失させたOcn KOマウスを作製し、Ocnの生理的機能を明らかにしようと考えた。

 解析にあたって、作製したOcn KOマウスはC57BL/6Nマウスと8-10回の戻し交配を行い、対照の野生型マウスは同腹個体を使用した。まず、14, 24, 36週齢の野生型マウス、Ocn KOマウスを用い、マイクロCT解析、骨組織形態計測、血清マーカー測定、骨芽細胞マーカー遺伝子発現解析を行い、海綿骨骨量、皮質骨厚、骨密度、骨形成、骨吸収を調べたが、雄・雌共に両者に差を認めなかった。さらに、3点曲げ試験で骨強度を、ラマン分光法により骨質解析を行ったが、両者に差を認めなかった。

 そこで、近年、材料学的観点による骨質指標として着目されている骨基質のコラーゲン線維・アパタイト結晶 (biological apatite:BAp)の配向性について、14, 36週齢の長管骨を用い解析を行った。野生型マウスと同様にOcn KOマウスのコラーゲン線維は骨長軸方向に配向し、BAp結晶サイズも差を認めなかった。しかし、Ocn KOマウスのBApはランダムに配向し、コラーゲン配向に対してのBAp配向の追従性が野生型マウスより著明に低下し、骨長軸方向のヤング率も低下した。このヤング率低下とBApの配向性の乱れは強い相関を示した(図1)。これらの結果は、Ocnがコラーゲン線維と平行にBApが配置・成長するために必要であり、その配向性が骨長軸方向の力学強度に重要であることを示している。(図2)

森石 武史
図1:骨基質のコラーゲン線維・アパタイト結晶 (BAp)の配向性解析
野生型マウスおよびOcn KOマウスは、骨長軸方向に平行にコラーゲン繊維が配向し、BApのc軸方向の結晶サイズも差を認めなかったが、Ocn KOマウスはBApがランダムに配向しており、コラーゲン配向に対してのBAp配向の追従性が野生型マウスより低かった。そして、骨長軸方向のヤング率が低下し、ヤング率低下とBAp-c軸の配向性の乱れは強い相関を示した。

森石 武史
図2:骨基質のコラーゲンの走行方向とアパタイト結晶 (BAp)の位置関係を示す模式図
オステオカルシンは、コラーゲン線維とBApとの位置関係を決定し、骨長軸方向の力学強度を決定する重要因子の一つである。

そして、Ocnとグルコース代謝・テストステロン産生・筋量維持への関連について、体重、随時血糖値、HbA1c値、糖負荷試験、インスリン負荷試験、脂肪組織の定量、精巣重量測定、精巣の組織解析、血清テストステロン値、テストステロン産生に関わる遺伝子発現解析、後肢の筋重量測定、筋繊維断面積測定等、様々な解析を行ったが、Ocn KOマウスは野生型マウスと差を認めなかった。

私達が作製したOcn KOマウスの解析から、Ocnは骨形成を抑制せず、アパタイト結晶のコラーゲン線維に沿った配向に必須であり、長軸方向の骨強度を維持していることが明らかとなった。しかし、Ocnが糖代謝・テストステロン産生・筋量を制御する作用は認めなかった。同時に発表された、WilliamsグループのOcn KOマウスでも糖代謝は正常であり(PLoS Genet 5:e1008361, 2020)、Ocnは生理的なホルモンとしては機能していないと考えられる(PLoS Genet 16:e1008939, 2020) 。

著者コメント

 近年、オステオカルシンは様々な機能を持つことが報告されていますが、私達はオステオカルシンがなぜ骨形成を抑制するのかという興味から、オステオカルシン KOマウスを作製し本研究を行ってきました。当初、作製したKOマウスはいくら解析を行っても野生型マウスと違いが見つかりませんでしたが、骨基質配向性研究を行っている大阪大学大学院工学研究科の中野先生との共同研究で、オステオカルシンがアパタイト結晶のコラーゲン線維に沿った配向を制御していることをはじめて見いだすことが出来ました。最後になりますが、ご指導頂きました硬組織疾患基盤研究センターの小守教授をはじめ、共著の先生方に厚くお礼を申し上げます。(長崎大学医歯薬学総合研究科生命医科学講座細胞生物学分野・森石 武史)