日本骨代謝学会

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海綿骨のスクレロスチン発現は破骨細胞によって抑制される

Sclerostin expression in trabecular bone is downregulated by osteoclasts
著者:Koide M, Yamashita T, Murakami K, Uehara S, Nakamura K, Nakamura M, Matsushita M, Ara T, Yasuda H, Penninger JM, Takahashi N, Udagawa N, and Kobayashi Y
雑誌:Sci Rep. 2020 Aug 13;10(1):13751. doi: 10.1038/s41598-020-70817-1.
  • 骨代謝共役
  • 破骨細胞
  • Sclerostin

小出 雅則

論文サマリー

 骨の恒常性は骨吸収と骨形成が共役し維持されます。我々のグループは、骨吸収が亢進したオステオプロテゲリン欠損 (OPG-KO) マウスでは骨形成も亢進すること、OPG-KOマウスにおいて骨吸収を抑制すると骨形成も抑制されることを示した (2003, Endocrinology)。近年、骨細胞はWnt受容体のアンタゴニストであるsclerostinを産生し、骨形成を抑制することが示されている。我々は、破骨細胞由来のleukaemia inhibitory factor (LIF) が骨細胞のsclerostinの発現低下をさせ、骨形成を促進させるという骨代謝共役機構を提唱しました (2017, JBMR)。しかし、この骨代謝共役の生理的役割は、不明でした。

小出 雅則w

我々は、海綿骨におけるsclerostin陽性細胞が皮質骨より顕著に少ないことに注目しました。一方、海綿骨に破骨細胞が豊富に存在しています。そこで、海綿骨の破骨細胞から分泌されるLIFが、海綿骨の骨細胞のsclerostinの発現を低下させ、海綿骨の骨形成を促進させるという仮説を立てました。本研究では、この仮説を2つのモデルで検証しました。① 抗RANKL抗体投与による海綿骨の破骨細胞消失モデル、② Rankl +/-マウスにおけるマイルドな骨吸収低下モデルを用いました。その結果、海綿骨の破骨細胞およびLIF陽性細胞の減少が観察されました。それに伴い、海綿骨のsclerostin陽性骨細胞が増加して、β-カテニン陽性細胞や骨形成が海綿骨で減少しました。最後に、培養破骨細胞において、RANKLシグナルがLIF発現を増加させました。結論として、海綿骨の豊富な破骨細胞がsclerostinの発現を抑制して、海綿骨の骨代謝回転を促進することが示されました。Sclerostin制御を介する生理的役割が明らかになりました。

著者コメント

 私は、松本歯科大学の宇田川信之先生、小林泰浩先生、高橋直之先生の下、骨の研究をする機会に恵まれました。学会で諸先生方の質問と向き合い、これまでの知見と観察より仮説を立て、論文にまとめることが出来ました。最近、ヒト破骨細胞が分泌するLIFが骨代謝共役因子であるとの報告がありました(Nat Commun 11:87, 2020)。我々の提唱する骨代謝共役機構がヒトでも重要であることが示唆されます。しかし、骨細胞のsclerostinを介する骨代謝共役機構の因果関係は明らかではありません。今後、骨代謝共役の制御機構におけるLIFとsclerostinの因果関係を明らかにすることが課題です。最後に、共同研究者であるオリエンタル酵母の保田尚孝先生とJosef Penninger先生に厚く御礼申し上げます。(松本歯科大学・小出 雅則)