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ステロイド性骨粗鬆症モデルマウスの大腿骨欠損修復におけるテリパラチドおよび抗RANKL抗体の併用効果の検討

Combined effect of teriparatide and an anti-RANKL monoclonal antibody on bone defect regeneration in mice with glucocorticoid-induced osteoporosis
著者:Yuki Etani, Kosuke Ebina, Makoto Hirao, Kazuma Kitaguchi, Masafumi Kashii, Takuya Ishimoto, Takayoshi Nakano, Gensuke Okamura, Akira Miyama, Kenji Takami, Atsushi Goshima, Takashi Kanamoto, Ken Nakata, and Hideki Yoshikawa
雑誌:Bone. 2020. Jul 6. [Epub ahead of print]
  • ステロイド性骨粗鬆症
  • テリパラチド
  • 抗RANKL抗体

惠谷 悠紀・蛯名 耕介
共著者の先生方と共に;写真右より高見賢司先生、平尾眞先生、筆者、蛯名耕介先生、三山彬先生、五島篤史先生

論文サマリー

 ステロイド性骨粗鬆症においてはステロイド投与開始早期からの骨吸収の亢進と、その後の骨形成抑制によりしばしば重度の骨粗鬆症を呈することが知られている。また、動物モデルでは骨折の治癒が遷延することより骨修復が得られにくいことが想定される。ヒトにおいては、骨吸収抑制剤である抗Receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand(RANKL)抗体と、骨形成促進剤であるテリパラチド(teriparatide; TPTD)はそれぞれ単剤でのステロイド性骨粗鬆症に対する骨折予防・骨密度増加効果などの有効性が報告されているが、その併用効果(特に骨修復における効果)は明らかとなっていない。本研究の目的は、ステロイド性骨粗鬆症モデルマウスの大腿骨骨欠損修復における抗RANKL抗体およびテリパラチドの併用効果を検討することである。

【方法】
 24週齢C57BL/6J雄マウスの皮下に徐放性ステロイド(プレドニゾロン)ペレットを埋入し、ステロイド性骨粗鬆症モデルマウスを作製した。ペレット埋入4週後に両側大腿骨にΦ0.7mmの骨欠損孔を作製し、術翌日より以下の4群 [(1)無治療群 (2) 抗RANKL抗体群 (3)TPTD群 (4)抗 RANKL抗体+TPTD併用群] に分けて薬剤投与を開始した。抗RANKL抗体(5mg/kg)は術翌日に1回のみ皮下注射し、テリパラチド(40µg/kg)及び生理食塩水は週5回・4週間皮下注射した。薬剤投与開始4週後に組織を回収し、骨欠損部及び腰椎について組織学的検査、micro-CT解析、骨形態計測、骨強度計測などを行った。

【結果】
1 骨欠損部の新生海綿骨の評価
無治療群では欠損部の骨再生はほとんど認められなかったが、抗RANKL抗体群→TPTD群→抗 RANKL抗体+TPTD併用群の順に骨再生の促進効果が認められた。破骨細胞のTartrate-Resistant Acid Phosphatase(TRAP)染色では、無治療群と比較して抗 RANKL抗体群では破骨細胞数は減少し、TPTD群では増加したが、抗 RANKL抗体+TPTD併用群ではほぼ認められなかった。骨形態計測の結果(Villanueva染色の蛍光顕微鏡観察)TPTD群および抗RANKL抗体+TPTD併用群では他群より多くの領域で骨形成が認められた。他群と比較して骨形成速度(bone formation rate per bone surface; BFR/BS)もTPTD群で高値となったが、骨吸収を反映する浸食面(eroded surface per bone surface; ES/BS)も増加しており、骨吸収も亢進していることが示された。抗 RANKL抗体+TPTD併用群ではES/BSは抗RANKL抗体群と同様に低下していたがBFR/BSは抗RANKL抗体群より有意に増加した。以上より抗RANKL抗体へのTPTD併用により骨吸収は抑制された状態で骨形成が促進されたことが示唆された。
2 骨欠損部の新生皮質骨の評価
新生皮質骨量をmicro-CT測定したところ、無治療群に対して抗 RANKL抗体+TPTD併用群で有意な増加を認めた。新生皮質骨の質的評価のためにNano-indentation法での骨強度測定を行ったところ、無治療群に対して抗RANKL抗体群と抗 RANKL抗体+TPTD併用群で有意な硬度の増加を認めた。
3 全身骨密度の評価
全身の骨密度への影響を調べるためmicro-CTで腰椎骨密度を測定したところ、無治療群に対してTPTD群→抗RANKL抗体群→抗RANKL抗体+TPTD併用群の順に骨密度増加効果が認められた。

【結語】
ステロイド性骨粗鬆症の大腿骨欠損モデルマウスに対し抗RANKL抗体およびTPTDの単剤・併用投与を行った。これらの併用投与は骨形成能を保ちながら骨吸収を抑制することで、それぞれの単剤投与よりも強い骨修復促進効果および骨密度増加効果を示した。

著者コメント

 ステロイド性骨粗鬆症はしばしば重症化し、低骨密度や易骨折性などの治療に難渋することも多く、より有効な新規治療が待望されています。本邦では抗RANKL抗体(デノスマブ)は関節リウマチに伴う骨びらんの進行抑制に、TPTDは骨折の危険性の高い骨粗鬆症への投与がそれぞれ認められていますがその併用効果は明らかとなっていませんでした。本研究成果より、ステロイド性骨粗鬆症および骨修復に対して抗RANKL抗体(デノスマブ)とTPTDの併用療法は既存の治療薬と比較してより有効な選択肢となる可能性が初めて示されました。最後になりましたが本研究に御協力頂きました関係者の皆様に心より御礼申し上げます。(大阪大学大学院 医学系研究科 器官制御外科学(整形外科学)・惠谷 悠紀、大阪大学大学院 医学系研究科 運動器再生医学共同研究講座・蛯名 耕介)