1型アンジオテンシンII受容体(AT-1R)遮断薬は尿毒症に伴う骨の材質特性劣化を緩和する
著者: | Wakamatsu T, Iwasaki Y, Yamamoto S, Matsuo K, Goto S, Narita I, Kazama JJ, Tanaka K, Ito A, Ozasa R, Nakano T, Miyakoshi C, Onishi Y, Fukuma S, Fukuhara S, Yamato H, Fukagawa M, Akizawa T |
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雑誌: | J Bone Miner Res. 2020 Aug 12. doi: 10.1002/jbmr.4159. |
- 慢性腎臓病
- 骨細胞
- 1型アンジオテンシンII受容体遮断薬
左から山本卓(in vivo実験の大半と臨床研究を担当)、岩崎香子(in vivo実験の一部とin vitro実験を担当)、風間順一郎(プロジェクトの統括)
論文サマリー
慢性腎臓病(CKD)患者は骨折リスクが著しく高いことが知られている。そこで3276人の維持透析患者を平均2.74年にわたって縦断的に追跡し、コックス回帰分析を行ったところ、AT-1R遮断薬を服用している透析患者は、全骨折による入院リスクのハザード比が0.57、股関節骨折に限ればハザード比は0.37と、それぞれ有意に低いことが判明した。次にSDラットに5/6腎結紮処置を行って慢性腎障害状態にすると、骨のアパタイト配向性は低下し、結晶性は低下し、ペントシジンマトリックス比率は上昇し、結果的に弾性力学特性の指標であるstorage moduleは低下した。組織学的には骨細胞のいない骨小窩=empty lacunaeが増加していた。AT-1R遮断薬オルメサルタンの使用は上記の全ての所見を有意に緩和させたが、オルメサルタンと同様に血圧を下げるヒドララジンにはその効果がなかった。マウス頭蓋骨から採集した骨細胞様細胞にはAT-1Rが発現していたが、この細胞を培養して解析すると、培養系へのアンジオテンシンII(AII)の添加は量・時間依存性に骨細胞様細胞のROS産生を促進し、アポトーシスを誘導した。ここで培養系にオルメサルタンを加えるとN-アセチルシステインと同様にAIIによる骨細胞様細胞のROS産生促進やアポトーシス誘導を阻害したが、やはりヒドララジンにはこの作用は認められなかった。以上の所見を勘案し、図2に示すような仮説が導かれた。1)AIIは骨細胞に直接作用して、そのROS産生促進を介してアポトーシスを誘導する。2)AII(など)に由来する骨局所の酸化ストレスはペントシジン蓄積などの基質劣化を進める。3)アポトーシスによって骨細胞ネットワークが遮断され、荷重情報が共有できなくなり、これに応じてアパタイト配向性に乱れが生じる。4)これらの結果、骨の弾性力学特性が劣化する。5)CKD病態では骨局所におけるAII濃度が上昇していることが知られており、上記のメカニズムに基づいて骨の弾性力学特性が劣化している。6)このために透析患者においてはAT-1R遮断薬を服用すると骨の脆弱性が緩和され、骨折による入院のリスクが低下した。
研究結果のコンセプト
著者コメント
CKD患者の易骨折性といえば副甲状腺機能異常と関連付けられるイメージが強いが、近年の疫学研究はその関連が希薄であることを繰り返し示している。我々は腎障害動物においては副甲状腺機能とは関係しない骨の弾性力学特性の劣化があること、その本態は材質特性の劣化であることを示してきた。また、RAS阻害薬を服用している透析患者は服用していない患者に比較して骨折に伴う入院リスクが低いことも報告してきた。これらを統合する機序を解明した結果が今回の論文である。「酸化ストレス亢進が骨の材質特性を劣化させる」ことには既に賛同者も多いが、本論文では「そこに治療介入の余地がある」ことを示しえた点が大きい。CKDに限らず、骨粗鬆症治療一般のブレイクスルーに繋がることを期待している。(福島県立医科大学腎臓高血圧内科学講座・風間 順一郎)