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TOP > 1st Author > 田中 智哉

テリパラチドはラットの卵巣摘除による疼痛過敏を一次感覚神経へのシグナルを介して軽減する

Teriparatide Relieves Ovariectomy-Induced Hyperalgesia in Rats, Suggesting the Involvement of Functional Regulation in Primary Sensory Neurons by PTH-mediated Signaling
著者:Tomoya Tanaka, Ryoko Takao-Kawabata, Aya Takakura, Yukari Shimazu, Momoko Nakatsugawa, Akitoshi Ito, Ji-Won Lee, Koh Kawasaki, Tadahiro Iimura
雑誌:Sci Rep. 2020 Mar 24;10(1):5346. doi: 10.1038/s41598-020-62045-4.
  • テリパラチド
  • 骨粗鬆症
  • 痛覚過敏

田中 智哉

論文サマリー

 骨粗鬆症では、背骨や手足の骨がわずかな力で骨折しやすくなり、日常生活動作(ADL)が低下する。加えて、80%以上の患者さんが背中や腰の痛みを抱えており、痛みによるADLの制限により骨や筋肉がさらに弱くなる、という悪循環により、患者さんの生活の質(QOL)低下が深刻化する。

 骨粗鬆症治療薬であるテリパラチドは、骨形成を促進し、骨密度や骨強度を増加させるアナボリック作用を持つことから、骨粗鬆症治療薬として臨床使用されている。骨粗鬆症患者さんの背中や腰の痛みが、テリパラチドにより改善したとの報告がされているが、その作用メカニズムについては十分な解析がなされていなかった。そこで、本研究では、閉経後骨粗鬆症モデル動物である卵巣摘除(OVX)ラットおよび培養神経細胞を用いて、痛覚過敏に対するテリパラチドの作用について詳細に検討した。

 12週齢のメスのラットに卵巣摘除(OVX)を施し、摘除4週後からテリパラチドを週3回、4週間投与した。足裏への刺激に対する逃避行動(疼痛行動)を解析した結果、OVXにより痛覚過敏が発症し、テリパラチドの投与はその痛覚過敏を改善することが確認できた。また、その効果は、テリパラチドの本来の作用である骨組織への作用よりも早く、投与から数時間後で認められた。そこで、我々は痛みを知覚する一次感覚神経に着目し、テリパラチドによる影響を詳細に解析した。PTH受容体の分布を調べたところ、一次感覚神経の細胞体の集合である脊髄後根神経節(DRG)にPTH受容体が発現していることが観察された。続いて、DRGから神経細胞を取り出して培養し、テリパラチドを作用させたところ、細胞内シグナルの変化が認められた。さらにDRGでの遺伝子発現を調べたところ、テリパラチドの投与によって疼痛関連因子の発現変動が認められた。一次感覚神経が受けた痛み刺激は、脊髄後角を経て、脳へ伝達されるが、最近、脊髄後角のミクログリアという免疫担当細胞の活性化が、慢性的な痛みの原因の1つであることが報告されている。今回の研究では、OVXによりミクログリアが活性化すること、テリパラチド投与がこの活性化を抑制することも明らかになった。

 こうした一連の研究から、テリパラチドが骨組織のみならず、神経系細胞にも直接作用し、骨形成とは独立したメカニズムにより疼痛軽減作用を発揮することが示唆された。

田中 智哉
テリパラチドは骨形成作用と疼痛軽減作用を示す

著者コメント

 テリパラチドは骨形成作用を持つ骨粗鬆症治療薬ですが、本研究では、テリパラチドにより早期に腰背部痛が改善したとの臨床現場からの声を動物実験に落とし込み、詳細に検討しました。臨床で生じた疑問を解決していくことも製薬企業の研究者の重要な使命の1つだと考えています。今後もテリパラチドの薬理作用の特徴について、基礎研究で解明していくことで、有効な治療法の提供に貢献したいと考えています。
 本研究を進めるにあたり、ご指導頂きました北海道大学の飯村忠浩先生、李智媛先生に心より感謝申し上げます。また、ご助力いただいた社内外の関係各位に深く御礼申し上げます。(旭化成ファーマ株式会社・田中 智哉)