日本骨代謝学会

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骨髄間質細胞は可塑性によって骨格幹細胞様の性質を獲得し骨再生に貢献する

A Wnt-mediated transformation of the bone marrow stromal cell identity orchestrates skeletal regeneration.
著者:Matsushita Y, Nagata M, Kozloff KM, Welch JD, Mizuhashi K, Tokavanich N, Hallett SA, Link DC, Nagasawa T, Ono W, Ono N.
雑誌:Nat Commun. 2020 Jan 16;11(1):332
  • 骨髄間質細胞
  • CXCL12
  • 骨再生

松下 祐樹

論文サマリー

 骨は多彩な機能を営む重要な器官である。その主な機能は骨格としての体の支持および運動機能の発揮であるが、成体における唯一の造血の場である骨髄を形成し、生命活動の維持に多大な貢献をしている。その中で、骨髄中には組織幹細胞の一種である間葉系(あるいは骨格系)幹細胞が存在し、骨の成長と維持、骨折の治癒などに貢献すると考えられている。骨髄間葉系幹細胞は、1)自己複製能と2)軟骨細胞、骨芽細胞、脂肪細胞への多分化能を併せ持つ細胞として定義される。骨再生という事象に焦点を当てると、損傷後、間葉系幹細胞が骨再生部位に凝集し、自己複製を繰り返しながら、速やかに軟骨細胞そして骨芽細胞へ分化することで骨折の治癒に寄与すると一般的には考えられている。しかしながら、そもそも間葉系幹細胞が定常状態で骨髄のどこに存在するのか、また骨再生時にどのように間葉系幹細胞が凝集し、骨再生に寄与するかは明らかにされていない。近年、骨髄中に存在するCXCL12陽性骨髄間質細胞(CXCL12-abundant reticular cells: CAR細胞)の一部が間葉系幹細胞としての機能を持つことが報告されている(Seike, Nagasawa, et al. Genes Dev 32:324-326, 2018)。

 そこでわれわれはin vivoにおけるCAR細胞のダイナミクスを解析するため、Cxcl12-creERマウスを新規に作出し、CAR細胞およびその系譜細胞を蛍光分子tdTomatoで標識することで細胞系譜の追跡を行った。シングルセルRNA解析によりCAR細胞は多様な細胞から構成されることが明らかとなり、その中でもこのCxcl12-creERは、骨髄の中央に位置し、静止状態を保ち脂肪細胞分化マーカーを高発現するCAR細胞の亜集団すなわちAdipo-CAR細胞を特異的に標識した。骨の成長期および成長後の定常状態においては、このAdipo-CAR細胞は予想に反して増殖も分化もせず骨髄にとどまることから、Cxcl12-creER で標識されるこれらの細胞は幹細胞というよりはむしろ終末分化した細胞であることが示唆された。特にこれらの細胞は皮質骨の骨芽細胞には全く分化しなかった(図1)。

松下 祐樹
図1 定常状態と骨再生時におけるCxcl12-creER細胞の系譜追跡。(本論文より改変) 全てのCXCL12陽性骨髄間質細胞を標識するCxcl12GFP(緑)と、骨髄中央に存在する静 止状態にあるCXCL12陽性細胞骨髄間質細胞を標識するCxcl12-creER;tdTomato(赤)に よる細胞系譜追跡を行った。 Cxcl12-creER;tdTomatoで赤く標識された細胞は、定常状 態では分化も増殖もしない(上段)が、骨再生時には強力に増殖し、再生骨の骨芽細 胞へと分化する(下段)。損傷を加えていない皮質骨にはCxcl12-creER細胞の系譜細胞 は全く存在しない。

 一方、骨再生時にはこのAdipo-CAR細胞は間葉系幹細胞様の特徴を持つ細胞に脱分化し、その上で骨芽細胞へと再分化することが明らかとなった(図1)。同時に骨再生時にはこのCAR細胞の亜集団だけでなく、骨芽細胞前駆細胞などの多様な細胞集団が併せて骨再生に参加し、骨芽細胞の形成に寄与することが明らかとなった。これまで骨折の治癒などの骨再生過程では、分化のヒエラルキーの頂点に位置する間葉系幹細胞が、全ての分化細胞を供給する源になることにより骨再生を司ると考えられていたが、本研究によりCAR細胞や骨芽細胞前駆細胞など様々な細胞が可塑性によって間葉系幹細胞様の性質を獲得し、さらに骨芽細胞へ分化することによって骨再生を引き起こすという新たなメカニズムが存在することが示唆された(図2)。

松下 祐樹
図2 骨再生14日目におけるCxcl12-creERで標識された系譜細胞の一細胞RNA解析。 (本論文より改変) 骨再生過程において、Cxcl12-creER;tdTomatoで赤く標識された系譜細胞を採取し一細 胞RNA解析を行ったところ、Cxcl12高発現の間質細胞(クラスター0,2,3)からCol1a1 高発現の骨芽細胞(クラスター4)へと段階的に分化していた。興味深いことに中 間に存在するクラスター1は骨格幹細胞マーカー(Cd51hiCd200hiCd90negCd105neg)で 定義された。つまり骨再生時にはCAR細胞は可塑性によって骨格幹細胞様細胞に脱 分化し、その後骨芽細胞へ分化することで骨再生に寄与することが示唆された。

 渡米して4年が経過し、待望のFirst authorの論文になりました。東京医科歯科大学顎顔面外科学分野/口腔病理学分野で博士課程を修了し、その後、長崎大学口腔腫瘍治療学分野で口腔外科の臨床を行なってきましたが、骨の再生は臨床家としても研究者としても自分がずっと興味を持って取り組んできたテーマでした。留学前に現所属であるミシガン大学歯学部の小野法明先生とお話し、これまで骨再生過程では当然存在しているだろうと自分では思ってきた骨髄間葉系幹細胞について、実は何も分かっていないということに気づかされました。結果的にはこの論文を通して、間葉系幹細胞というよりは、もともと存在する骨髄間質細胞や骨芽細胞前駆細胞 など様々な細胞が可塑性によって脱分化しつつ骨再生に貢献する可能性を示すことができました。とは言え、まだまだ分かっていないことは多く、引き続き骨の形成、再生における骨格幹細胞とその周辺について解明していきたいと思っています。最後に、ご指導いただいた小野法明先生をはじめ、サポートいただいた皆様にはこの場を借りて感謝申し上げます。(ミシガン大学歯学部・松下 祐樹)