日本骨代謝学会

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Erythromyeloid progenitorは、骨の恒常性維持と修復に寄与する破骨細胞の起源である

Erythromyeloid progenitors give rise to a population of osteoclasts that contribute to bone homeostasis and repair.
著者:Yahara Y, Barrientos T, Tang YJ, Puviindran V, Nadesan P, Zhang H, Gibson JR, Gregory SG, Diao Y, Xiang Y, Qadri YJ, Souma T, Shinohara ML, Alman BA.
雑誌:Nat Cell Biol. 2020 Jan;22(1):49-59.
  • 破骨細胞
  • 卵黄嚢
  • EMP

箭原 康人

論文サマリー

 これまで破骨細胞は、骨髄に存在するHematopoietic stem cell (HSC)から発生するマクロファージ/単球系の細胞から生じると考えられてきました。しかし、近年、マクロファージの一部は、骨髄のHSCではなく胎児卵黄嚢に発生するErythromyeloid progenitor (EMP)から発生し、組織在住マクロファージとして生後の組織に存在することが報告されました。我々は、「胎児卵黄嚢に発生したマクロファージが破骨細胞の供給源になっているのではないか?」という仮説を立て、破骨細胞の新しい起源を同定することを目指して研究をスタートしました。

 EMPは胎生7.5日齢に卵黄嚢に発生し、E8.5から12.5にかけてCx3cr1陽性卵黄嚢マクロファージへと分化します。まず、我々は卵黄嚢マクロファージに由来する細胞の運命を追跡するため、Cx3cr1CreERおよびRosa26tdTomatoマウスを交配し、胎生9.5日齢に4-hydroxytamoxifen を妊娠マウスの腹腔内に投与しました。卵黄嚢に発生するマクロファージをtdTomatoで標識し、その子孫細胞の運命を追跡しました。その結果、胎児卵黄嚢に発生したマクロファージは、生後のマウスの骨髄腔に存在し、破骨細胞へと変化していました(図1)。

箭原 康人

 次にマウスの大腿骨に傷をつけて、その修復過程を観察しました。骨の修復過程では、新しい骨が形成されると同時に、骨の形状を整えるために破骨細胞が活性化し骨リモデリングが起こります。そこで、胎児卵黄嚢マクロファージをtdTomatoで標識したマウスの骨に傷をつけて、その修復過程を観察しました。卵黄嚢に由来するマクロファージはゆっくりと損傷部分に移動し、破骨細胞へと変化し、骨の吸収に関与していました(図2)。

箭原 康人

 「どのようにして卵黄嚢由来マクロファージは、骨損傷部に移動するのか?」この疑問を解決するために、パラバイオーシス実験を行いました。卵黄嚢由来のマクロファージだけをtdTomatoで標識したマウスと、Cx3cr1陽性マクロファージがGFPで標識されたマウスの皮膚を縫い合わせて血流を共有させ、後者のマウスの大腿骨に傷をつけてその修復過程を観察しました。その結果、tdTomatoで標識された卵黄嚢由来のマクロファージは、血流にのって後者のマウスの骨損傷部に移動し、破骨細胞へと変化して骨の吸収に関与していました。

著者コメント

 子供は旺盛な骨修復力と骨リモデリング力(自家矯正力)を持っています。そのため子供の骨折では、癒合までの期間が短く、骨折部が変形して癒合しても、自家矯正によってアライメントが改善します。この自家矯正力は小児期特有の能力であり、我々は年々その能力を失います。私は、整形外科医として日常診療を行う上で、子供特有の自家矯正力に興味を持っていました。そこで、子供の骨には特有のリモデリング担当細胞(破骨細胞)がいるのではないかと考えて、この研究を発案しました。留学先のボスであるDuke大学整形外科Benjamin Alman先生には、実験計画からシングルセル解析の立ち上げ、論文作成まで最大限のバックアップを頂きました。2年間という短い留学生活で、研究に集中することができたのは、最高の研究環境と家族の支えがあったからだと心から感謝しています。また貴重な留学の機会を与えてくださった富山大学整形外科同門の皆さまに心から御礼申し上げます。(富山大学医学部整形外科・箭原 康人)