日本骨代謝学会

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軟骨細胞はTMEM147を依存的なNF-κB経路の活性化を介して関節炎を引き起こす

Chondrocytes play a role in the development of rheumatoid arthritis via TMEM147-mediated NF-κB activation.
著者:Ota M, Tanaka Y, Nakagawa I, Jiang JJ, Arima Y, Kamimura D, Onodera T, Iwasaki N, Murakami M.
雑誌:Arthritis Rheumatol. 2020 Jun;72(6):931-942. doi: 10.1002/art.41182.
  • 破骨細胞
  • RA
  • TMEM147

太田 光俊

論文サマリー

 我々はこれまでの研究で,慢性炎症を引き起こす鍵となる分子メカニズムとして,IL-6アンプ/炎症アンプを報告している.これは線維芽細胞や血管内皮細胞などの非免疫細胞に存在し,NF-κB経路とSTAT3経路の同時活性化によって、過剰なNF-κBが誘導、種々の炎症性サイトカインやケモカイン,増殖因子などを局所にて過剰に産生する機構である.IL-6アンプが局所にて慢性的に活性化すると免疫細胞の浸潤がもたらされ,恒常性の破綻から慢性炎症が引き起こされる.

 これまで関節リウマチ(RA)の病態に大きくかかわるのは滑膜細胞であると考えられ,多くの治療薬が開発されてきたが依然難治例は存在している.そこで我々は,RA等の関節炎で炎症の結果傷害されると考えられてきた軟骨細胞に着目し,軟骨細胞にIL-6アンプが存在するかどうかを明らかにするとともに,2013年に全ゲノムshRNA解析から同定済みのIL-6アンプ関連分子であるTransmembrane protein 147(TMEM147)の機能を精査することとした.

 軟骨細胞は,NF-κB経路とSTAT3経路の同時活性化によって炎症性サイトカインやケモカインを大量に発現したことから,IL-6アンプの存在が明らかになった.さらにRAモデルマウス及びRA患者の軟骨組織において,IL-6アンプ活性化の指標であるNF-κBとSTAT3の同時活性化が認められた.一方,軟骨細胞特異的なIL-6アンプの抑制によりRAモデルマウスの関節炎が抑制されたことから,軟骨細胞のIL-6アンプがRAの病態に関わることが示唆された.

 さらに,RAモデルマウス及びRA、変形性関節症患者の膝サンプルを用いた検討から,TMEM147は,関節軟骨組織に強く発現していることが明らかになった.軟骨前駆細胞株(ATDC5)においてTMEM147を過剰発現させるとIL-6アンプの活性化が増強され,これに対してTMEM147遺伝子をRNA干渉によって抑制したり,抗TMEM147抗体を添加することによりIL-6アンプの活性化が抑制されることが示された.加えて生体内においても,抗TMEM147抗体の局所投与によってRAモデルマウスの関節炎が有意に抑制された.TMEM147が病態を誘導する分子メカニズムとしては,我々のグループが以前報告したNF-κB活性化の新規経路(BCR-CK2α複合体)における足場タンパクとして機能していることが示された.

 今回の我々の発見は,RAを含む関節の炎症性疾患の病態についての新たな理解をもたらし,関節炎における軟骨細胞の重要性を明らかにしたものであり,新規治療法開発の一助になるものと期待される.  

著者コメント

 私は整形外科医として多くの関節炎に罹患した患者さんを診るうちに,病態を解明する基礎研究に興味がわき大学院進学を決めました.北海道大学整形外科教室 岩崎教授のご厚意で,北海道大学分子神経免疫学分野 村上教授にご指導いただくチャンスを授かり,関節炎の研究に携わることができました.
 研究を始めた当初は何度となく実験の失敗を繰り返しましたが,研究室のみんなに支えられて,今回研究成果を世に出すことが叶いました.本研究から得られた知見が,関節炎患者さんの治療に今後貢献していくことを願っています.
 大学院での日々を通して得られた経験や繋がりは,人生における貴重な宝物であると感じています.私を支えてくださった方々に,この場をお借りして心からの深謝申し上げます.(北海道大学遺伝子病制御研究所分子神経免疫学分野・太田 光俊)