関節炎における破骨前駆細胞の同定とその解析
著者: | Hasegawa T, Kikuta J, Sudo T, Matsuura Y, Matsui T, Simmons S, Ebina K, Hirao M, Okuzaki D, Yoshida Y, Hirao A, Kalinichenko VV, Yamaoka K, Takeuchi T, Ishii M. |
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雑誌: | Nat Immunol. 2019 Dec;20(12):1631-1643. doi: 10.1038/s41590-019-0526-7. |
- パンヌス
- RA
- 破骨細胞
論文サマリー
骨破壊を担うユニークな多核細胞である破骨細胞は、骨髄で骨の恒常性維持に重要な役割を果たす一方、関節リウマチでは関節の病的な骨破壊を惹起する。これまで数多くの研究が骨髄・脾臓・血液中の単球系細胞を探索し、破骨前駆細胞の同定が試みられてきたが、関節炎の病変の主座である「滑膜—骨境界領域」における詳細な解析はなされてこなかった。
今回我々は、独自のプロトコールを用いることで関節炎において骨破壊を引き起こす炎症性滑膜組織(パンヌス)を単離し、骨髄中には存在しないCX3CR1hiLy6CintF4/80hiI-A/I-E+のマクロファージサブセットが著明な破骨細胞分化能を有することを発見した。これらをArthritis-associated osteoclastogenic macrophage (AtoM)と呼称し、CX3CR1-EGFP/TRAP-tdTomatoダブルトランスジェニックマウスを用いた骨髄キメラマウスやパラビオーシスモデルにより、AtoMと成熟破骨細胞が、滑膜常在性マクロファージではなく骨髄由来の細胞が関節に流入した後に分化し形成されることを明らかにした。さらにAtoMは、TNFとRANKLを同時に投与することで最も効率よくin vitroで破骨細胞へ分化することが示された。
網羅的トランスクリプトーム解析では、血液から滑膜へ流入したCX3CR1loLy6Chi細胞が炎症性サイトカイン(Il-1, Il-6, Tnf)、ケモカイン(Cxcl, Ccl)、Vegfaを高発現する一方、AtoMは破骨細胞マーカー遺伝子を高発現しており、調節因子の一つとして抽出されたFoxm1がAtoMの破骨細胞分化能に関与することが示された。また、CX3CR1loLy6Chi細胞からAtoMへの分化にM-CSFが重要であり、炎症滑膜ではM-CSFが豊富に発現していた。
骨表面で成熟破骨細胞へ分化する細胞の数は生体内では限られるため、AtoMのみを回収しシングルセル解析を行った結果、約1割の細胞がAcp-5、Ctsk、Atp6v0d2、Mmp9などの破骨細胞マーカー遺伝子を高発現しており、この細胞集団がin situで実際に病原性の破骨細胞へ分化していることが示された。以上より、本研究はパンヌスに存在する病原性の破骨前駆細胞を同定し、これらの詳細な分化系譜を明らかにした。今後、滑膜—骨境界領域に形成される成熟破骨細胞を様々なアプローチで解析することが期待される。
図:パンヌスに形成される病原性破骨細胞の分化系譜
著者コメント
モデル動物とヒト疾患の病態には少なからず相違が存在しますが、関節組織の炎症の終着点として破骨細胞が形成される点においては、マウスモデルと関節リウマチは共通すると考え、パンヌスという特徴的な組織に注目して参りました。マウスのような小さい生物の滑膜は周囲の脂肪組織や膝蓋骨、末梢血の混入を受けやすく、単離することは試行錯誤の連続でしたが、幼い頃にミニ四駆の改造をしていた時のような独特なワクワク感があり、研究の一つの醍醐味を学びました。本研究を遂行するにあたり、素晴らしい研究環境とご指導を与えて下さった石井優教授、そして多大なご助力を賜りました共著の先生方にこの場をお借りして心から感謝申し上げます。(大阪大学免疫細胞生物学教室・長谷川 哲雄)