日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 浅野 達雄

可溶型RANKLは生理的には必須ではないが、がんの骨転移を促進する

Soluble RANKL is physiologically dispensable but accelerates tumour metastasis to bone.
著者:Tatsuo Asano, Kazuo Okamoto, Yuta Nakai, Masanori Tsutsumi, Ryunosuke Muro, Ayako Suematsu, Kyoko Hashimoto, Tadashi Okamura, Shogo Ehata, Takeshi Nitta, Hiroshi Takayanagi
雑誌:Nat Metab Published: 02 September 2019
  • RANKL
  • 骨転移

浅野 達雄

論文サマリー

 RANKLは破骨細胞分化、免疫組織形成、乳腺発達に必須の多彩な機能を持つサイトカインである。膜結合型と可溶型の活性のある二つの形態を持つが、生体での役割の違いは解明されていなかった。そこでCRISPR/Cas9法によるゲノム編集で可溶型RANKLを選択的に欠損しているマウス(ΔSマウス)を作製し解析した。その結果、生理的な状況では破骨細胞分化、免疫組織形成のいずれにも可溶型RANKLは寄与していないことが判明した。このことから、生理的な働きは膜結合型RANKLを介した細胞間接触によって厳密にRANKL-RANK signalが制御されていることが示唆された。また卵巣摘出による骨粗鬆症モデルにおいても骨量減少には両者の違いは認められなかったことから、生理的状況、病的状況いずれにおいても破骨細胞分化への可溶型RANKLの影響は限定的であることが示唆された。

 骨は最もがんの転移を認める組織の一つである。がん細胞が産生した副甲状腺ホルモン関連タンパク質によって、骨芽細胞が刺激されRANKLの発現が上昇する。RANKLの刺激によって破骨細胞分化が誘導され、骨基質の破壊が促進する。骨基質の破壊によって、骨基質由来の増殖因子が放出されるため、がん細胞の生存と増殖が促進する。このよういにがん細胞、破骨細胞、骨基質、骨芽細胞が関連する一連の増悪サイクルが骨破壊を伴う骨転移では起きている。一方でIn vitroの実験系では可溶型RANKLがRANK発現がん細胞(乳がん細胞・悪性黒色腫細胞)の遊走を直接的に誘導することが報告されていた(Jones, Nature, 2006; Nakai, Bone Research, 2018)。そこで生体内での可溶型RANKLのがん骨転移への影響を検証するために、ΔSマウスに対してRANKを発現している2種類のがん細胞(E0771細胞・B16F10細胞)を用いて骨転移実験を行なった。その結果、溶骨性転移(E0771細胞)、非溶骨性転移(B16F10細胞)いずれもΔSマウスでは転移が抑制された。一方で、E0771細胞、B16F10細胞いずれも破骨細胞活性化には野生型マウスとΔSマウスとでは差を認めなかった。さらにRANKを欠損させたB16F10細胞において骨転移モデルを施行したところ、野生型においても骨転移が抑制されたことからRANK-RANKLの重要性が確認された。その上、野生型マウスとΔSマウスとで転移量には差がなかったことにより、可溶型RANKLの作用はがん細胞に発現しているRANKに依存することが示された。

 これらの結果より、可溶型RANKLは破骨細胞を活性化することなく、RANKを発現しているがん細胞に直接的に作用し骨へ誘導することが示唆された。近年の臨床研究では乳がん患者において、血中RANKLが高い群は、骨髄内への腫瘍細胞播種を認める率が高く、かつ骨転移が成立する率が高いことが報告されている(Rachner, Clinical cancer research, 2019)。これらの結果を考慮すると、可溶型RANKLは骨転移の予測バイオマーカーとして有用であることが示唆される。また可溶型RANKLを選択的に阻害することができれば、生理的機能には影響を与えずに骨転移を抑制することが期待できる。

浅野 達雄

著者コメント

 本研究は私にとって初めての研究論文でした。当初は可溶型RANKLの生理的機能を中心に論文投稿しました。ところがEditorからは生理的機能よりも、骨転移を中心として論文をまとめ直すように指示されました。そのため、使用するがん細胞株の選定を含めて、一から骨転移のデータを取り直しました。最終的に受理されるまでに実に1年7ヶ月もの期間を要しました。途中、私は3回くらい心が折れましたが、Corresponding authorである高柳広先生、岡本一男先生に支えられ無事にゴールに辿り着けました。本研究で学んだことを糧に、がんを対象とした研究を今後も行いたいと思います。最後に本研究に御協力頂いた皆様に感謝申し上げます。(東京大学大学院医学系研究科免疫学・浅野 達雄)