日本骨代謝学会

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骨芽細胞と骨細胞は互いに分化・脱分化する

Alternating Differentiation and Dedifferentiation between Mature Osteoblasts and Osteocytes
著者:Sawa N, Fujimoto H, Sawa Y, Yamashita J.
雑誌:Scientific Reports, 2019 Sep 25;9(1):13842. doi: 10.1038/s41598-019-50236-7.
  • 骨細胞
  • 骨芽細胞
  • 脱分化

山下 潤朗・沢 稔彦

論文サマリー

 骨基質を分泌している骨芽細胞が基質に埋没すると樹状を形成し骨細胞に分化すると考えられている.この意味で骨芽細胞は骨細胞の前駆細胞であるが,この両者間の分化・脱分化能についてはほとんど未解明である.本研究では,マウス頭蓋由来骨芽細胞およびMC3T3-E1骨芽様細胞を用いて骨芽細胞と骨細胞の分化・脱分化能について検討した.

 軟組織を除去したマウス新鮮頭蓋骨より初代骨芽細胞を分離し,通常の培養皿で2次元(2D)培養した.次にこれら頭蓋由来骨芽細胞をコラーゲンI層の中で3次元(3D)培養した.更に3D培養した細胞をコラーゲンI層から分離し,再び2Dの条件で培養した.骨芽細胞,骨細胞への分化の検証は,細胞骨格蛍光染色による形態変化,石灰化基質分泌能,細胞周期分析で行った.さらに,骨芽細胞,骨細胞に特異的な遺伝子の発現をRNAレベルで比較した.一連の実験はMC3T3-E1細胞でも行った.

 頭蓋骨由来骨芽細胞は2D培養により骨芽細胞に特異的な遺伝子であるalplを強く発現し顕著な石灰化能力を示した.これらの成熟細胞を3D培養すると,多くの樹状突起を形成し骨細胞特有の形態に変化した.さらに伸張した樹状突起は,近傍の細胞と連結し細胞間ネットワークの形成も認められた.また骨細胞に特異的な遺伝子であるSost, Fgf23, Dmp1の発現も有意に増加していた.興味深いことに,これら骨細胞を分離し再び2D培養すると骨細胞に特異的な遺伝子の発現量は有意に減少し,骨芽細胞に特異的な遺伝子であるalplの強い発現が再び認められた.さらに,これらの細胞を石灰化培地で培養すると強い石灰化沈着がおこることも確認できた.以上のことより,頭蓋骨由来骨芽細胞は2Dで培養すると骨芽細胞の形質を示し,3Dで培養すると骨細胞に分化することが示唆された.さらに分化した骨細胞を2D培養に戻すと脱分化がおこり, 再び骨芽細胞の性質を示すことも明らかとなった.一方MC3T3-E1細胞では,3D培養により樹状形成および細胞間ネットワークは見られたが,初代骨芽細胞ほど遺伝子発現に顕著な変化は認められなかった.

 マウス頭蓋骨由来の初代骨芽細胞は2D,3Dと培養環境を変えることにより,自発的に分化・脱分化を起こす細胞である可能性が示唆された. (福岡歯科大学 口腔歯学部 再生医学研究センター・山下 潤朗)

山下 潤朗・沢 稔彦

著者コメント

 骨系細胞が, 空間的培養環境に依存して, 可逆的に形態や遺伝子発現を変化させたことは大変興味深く, このような発見を報告できたことを嬉しく思います. しかしながら骨細胞は, 生体内では骨の中に埋没しており, 骨吸収能やエネルギー代謝などその特性は未だ不明な点が多い細胞です. 細胞の3D培養は, 近年注目されている生体環境に近い実験方法であり, 今後もこれを利用した新しい知見や解析結果が得られてくると考えられます. 我々も新しいアイデアを取り入れながら新たな発見をしていけたらと思います. 最後に, 本研究は, 福岡歯科大学 咬合修復学講座の山下研究室で行いました. 本研究を行うにあたり, 山下博士より多大なる御尽力を賜りましたことを厚く御礼申し上げます. (福岡歯科大学 咬合修復学講座・沢 稔彦)