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日本人のゲノムワイド関連解析で14の新たな思春期特発性側彎症感受性遺伝子座を発見

Genome-wide association study identifies 14 previously unreported susceptibility loci for adolescent idiopathic scoliosis in Japanese.
著者:Kou I, Otomo N, Takeda K, Momozawa Y, Lu HF, Kubo M, Kamatani Y, Ogura Y, Takahashi Y, Nakajima M, Minami S, Uno K, Kawakami N, Ito M, Yonezawa I, Watanabe K, Kaito T, Yanagida H, Taneichi H, Harimaya K, Taniguchi Y, Shigematsu H, Iida T, Demura S, Sugawara R, Fujita N, Yagi M, Okada E, Hosogane N, Kono K, Nakamura M, Chiba K, Kotani T, Sakuma T, Akazawa T, Suzuki T, Nishida K, Kakutani K, Tsuji T, Sudo H, Iwata A, Sato T, Inami S, Matsumoto M, Terao C, Watanabe K, Ikegawa S.
雑誌:Nat Commun. 2019; 10(1):3685.
  • 思春期特発性側彎症
  • 全ゲノム相関解析(GWAS)
  • Meta-analysis

稲葉 郁代

論文サマリー

 側彎症は脊椎が三次元的にねじれて体幹に変形を来す疾患で、その多くは原因が特定できない特発性側彎症である。中でも最も発症頻度が高いのが、10歳以降の主に女児で発症する思春期特発性側彎症(adolescent idiopathic scoliosis: AIS)である。

 AISは遺伝的因子と環境的因子の相互作用により発症する多因子遺伝病であり、我々はこれまでにゲノムワイド関連解析(genome-wide association study: GWAS)を行い、LBX1GPR126BNC2など複数のAIS感受性遺伝子座を世界に先駆けて報告してきた。しかし、これまで報告した遺伝子座だけでは、AISの遺伝的背景を説明するのに不十分である。そこで、新たな日本人集団を用いてGWASを行い、先に行った2つの日本人集団のGWASと統合した大規模GWASメタ解析(AIS患者 5,327人、非患者73,884人)を行った。その結果、AISの発症に関連する20カ所の感受性遺伝子座を同定した。同定した遺伝子座のうち14カ所は、これまでに報告されていない新規遺伝子座であった(図1)。さらに、AISは女児に多く発症することから、女性AIS患者のみを対象とした層別化解析を行い、女性のAIS発症に関連する3カ所の感受性遺伝子座を同定した。

 次に、GWAS結果を用いて、AISと様々な多因子形質(61の量的形質と6つの多因子疾患)との遺伝的な関わりについて評価した。その結果、AISの発症はBMIや尿酸値と遺伝的背景を共有し、負の相関関係にあることがわかった。また、GWAS結果を公共のデータベースのエピゲノム情報と統合し、AISの発症に重要な特定の組織・細胞種がないか検証したところ、AISの発症が心血管系、骨格筋、結合組織/骨、中枢神経系など六つの組織・細胞種に関与することが明らかになった。

 今回新たに同定したAIS感受性遺伝子座の一つである22番染色体上のSNP、rs1978060は、転写因子TBX1の遺伝子内に位置し、in vitroの解析からこのSNPをもつ患者に多い対立遺伝子では、転写因子FOXA2が結合しにくくなり、TBX1遺伝子の発現が低下することが示された。今後、今回同定した他の感受性遺伝子座についても原因遺伝子を特定することで、AISの病態解明が進み、診断予測モデルや治療薬の開発につながるものと期待される。

稲葉 郁代

著者コメント

 今回、世界最大規模のAIS研究コホートを用いたGWASメタ解析により、新たなAIS感受性遺伝子座が数多く同定され、また、オミックス解析によりAISの発症に関する新たな知見が得られました。本研究は、慶應義塾大学整形外科の渡邉先生を中心とする日本側彎症臨床学術研究グループの先生方、患者様、理化学研究所の寺尾先生をはじめとする統計解析の先生方など多くの皆様のご協力により成り立っており、池川先生の指導のもと、このような形で研究成果をまとめることができましたことを心より感謝申し上げます。(理化学研究所 生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム・稲葉 郁代)