日本骨代謝学会

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ストレス関連遺伝子Nupr1/p8の欠損は破骨細胞分化を低下させ骨芽細胞分化を促進して骨量を増加させる

Deficiency of stress-associated gene Nupr1/p8 increases bone volume by attenuating differentiation of osteoclasts and enhancing differentiation of osteoblasts
著者:Makoto Shiraki, Xianghe Xu, Juan L. Iovanna, Toshio Kukita, Hirohito Hirata, Asana Kamohara, Yasushi Kubota, Hiroshi Miyamoto, Masaaki Mawatari, Akiko Kukita
雑誌:FASEB J. 2019 Aug;33(8):8836-8852
  • 破骨細胞
  • 骨芽細胞
  • 骨細胞

久木田 明子・白木 誠

論文サマリー

 筆者らはラットの破骨細胞培養系を用いた網羅的解析において破骨細胞で高く発現する遺伝子としてNuclear protein1 (Nupr1)を見出しました。Nupr1は低分子の核タンパク質で、癌の進展、アポトーシス、オートファジーの制御など様々な機能が報告されており、ストレス応答のキープレーヤーと考えられています。しかしながら、Nupr1の骨代謝における機能は明らかにされていなかったため、本研究ではJuan L Iovanna 博士らが作成したNupr1のノックアウトマウスを用いて骨代謝における役割を解析しました。

 Nupr1のノックアウトマウスの大腿骨海綿骨のμCTによる骨構造解析を行ったところ、骨量が野生型マウスと比較して増加していることがわかりました。さらに骨形態計測を行ったところ、破骨細胞数や単核の破骨細胞数の減少が見られました。さらに、マウスより骨髄細胞を単離して骨髄マクロファージからのRANKLによる破骨細胞の形成を比較した結果、Nupr1ノックアウトマウスからの破骨細胞形成がやや低下しており、さらに前駆細胞の増殖と分化が抑制されており、Nupr1は破骨細胞の初期に必要であり、Nupr1の欠損は破骨細胞分化に抑制的に働いていると考えられました。一方面白いことに、Nupr1ノックアウトマウスでは破骨細胞分化の低下が見られたにもかかわらず、骨芽細胞数や骨形成が増加していました(図1)。Nupr1は、骨組織では骨芽細胞の一部や骨細胞に高い発現が見られ、骨芽細胞前駆細胞を単離し、in vitro培養系を用いて細胞の増殖及び分化能について検討しました。

久木田 明子・白木 誠

その結果、Nupr1ノックアウトマウスでは骨芽細胞前駆細胞の増殖が亢進しており骨基質タンパク質の発現と石灰化亢進が認められました。また、Nupr1ノックアウトマウスの骨芽細胞ではオートファジー活性が亢進しており(図2)、細胞の生存能も亢進していました。

久木田 明子・白木 誠

さらに、ノックアウトマウスの骨細胞を調べたところ、細胞数の増加とアポトーシスの低下が見られ、成熟骨細胞の特徴である細胞突起の形成が低下し骨形成を抑制するタンパク質であるsclerostinの発現が低下していました。以上のことからNupr1ノックアウトマウスでは、破骨細胞分化の低下及び骨芽細胞分化生存の亢進とsclerostin産生の低下により骨量が増加したと考えられました。本研究によりNUPR1の働きを抑えることは骨吸収を抑え骨形成の促進につながることが明らかになりましたが、骨細胞におけるまだ未知の働きも示唆されたため今後明らかにしていきたいと考えています。(佐賀大学医学部病因病態科学講座微生物学分野・久木田 明子)

著者コメント

 佐賀大学微生物学教室久木田准教授のもと骨代謝に関わる新たな候補遺伝子であるNupr1の研究に携わることができました。骨粗鬆症は整形外科と決して切り離せないものであり、研究にも興味があったので基礎研究の世界に飛び込みました。研究を始めた当初は難解な言葉の羅列にしか見えない論文の読解に手を焼き、実験手技の拙さから上手くいかないことも多々ありました。破骨細胞から始まった研究でしたが骨芽細胞や骨細胞にまで実験が及び、時間は費やしましたがその分多くの成果が得られ、ついに英語論文として形にすることができました。改めてここにご指導いただいた久木田准教授、佐賀大学整形外科馬渡教授を始め共著の先生方に深謝いたします。今後Nupr1の研究がさらに進展し骨粗鬆症治療に貢献できる日が来ることを願っています。(佐賀大学医学部整形外科学講座・白木 誠)