日本骨代謝学会

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L型アミノ酸トランスポーターLAT1は破骨細胞形成を阻害して骨恒常性を維持する

The L-type amino acid transporter LAT1 inhibits osteoclastogenesis and maintains bone homeostasis through the mTORC1 pathway.
著者:Ozaki K, Yamada T, Horie T, Ishizaki A, Hiraiwa M, Iezaki T, Park G, Fukasawa K, Kamada H, Tokumura K, Motono M, Kaneda K, Ogawa K, Ochi H, Sato S5 Kobayashi Y, Shi YB, Taylor PM, Hinoi E.
雑誌:Sci Signal. 2019 Jul 9;12(589). pii: eaaw3921.
  • LAT1
  • 破骨細胞
  • アミノ酸トランスポーター

山田 孝紀

論文サマリー

 L-type amino acid transporter 1 (LAT1) はsolute carrier transporter 7a5 (Slc7a5) によってコードされるアミノ酸トランスポーターの一種であり、ロイシンやイソロイシンなどの大型の中性アミノ酸を細胞内へ輸送する働きを持つ。本研究グループはこれまでに、アミノ酸が骨格の形成やその恒常性維持に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。しかしながら、骨芽細胞や破骨細胞に発現しているアミノ酸トランスポーターが、どのようなメカニズムで骨組織の恒常性を維持しているのかについては明らかになっていなかった。そこで本研究グループは、アミノ酸シグナルによる骨組織の恒常性の維持にLAT1が関与しているかどうかを明らかにすることを試みた。

 まずLAT1が骨芽細胞及び破骨細胞で機能するかどうかを評価する為に、マウスから単離した初代培養の骨芽細胞と破骨細胞を用いて、放射標識したアミノ酸を用いて各細胞への取り込み量を調べた。LAT1阻害剤を曝露すると、アミノ酸の取り込みが骨芽細胞で約60%、破骨細胞で約10%までそれぞれ抑制された。また、閉経後骨粗鬆症モデルマウスを作製して破骨細胞でのSlc7a5の発現を調べた結果、偽手術を施したコントロールマウスとの比較で有意に減少していた。

 続いて、生体内におけるLAT1の重要性を明らかにする為、骨芽細胞特異的及び破骨細胞特異的Slc7a5欠損マウスをそれぞれ作製し、骨表現型解析を行った。骨芽細胞特異的Slc7a5欠損マウスでは骨量に変化は認められなかった。一方で、破骨細胞特異的Slc7a5欠損マウスでは骨量が有意に減少し、破骨細胞のパラメーターが有意に増加していた。

 そこで、LAT1が破骨細胞に与える影響を詳細に調べるためにin vitro実験を実施した。Slc7a5を欠損させた骨髄中マクロファージ (BMMs) を破骨細胞へと分化させたところ、野生型BMMsを用いた場合と比較してTRAP陽性細胞数が著明に増加した。一方、増殖やアポトーシスに有意な変化は認められなかった。さらにSlc7a5欠損によって、Akt/GSK3βシグナルとNF-κBシグナルの亢進が認められ、転写因子Nfatc1の発現および核内蓄積が著明に上昇していた。

 以上の結果より、LAT1は細胞の増殖や生存に影響を与えることなく、破骨細胞形成を負に制御し、骨恒常性維持に重要な役割を果たすことが示唆された。本研究成果が、骨粗鬆症、関節リウマチ、転移性骨癌などの破骨細胞機能異常に関連する様々な代謝性骨疾患の診断及び治療法開発へと繋がる事を願う。

山田 孝紀

山田 孝紀

著者コメント

 私は大学生時代の時から、骨代謝研究をしたいと強く願っており、特に難治性骨疾患に対して興味がありました。大学院生として檜井栄一先生のご指導を頂き、LAT1不活性化マウスの研究を行ってきました。骨の切片を作成して解析を行った結果、骨芽細胞特異的にLAT1を不活性化させたマウスでは何の変化も見られませんでしたが、破骨細胞特異的にLAT1を不活性化させたマウスで、破骨細胞が増え、骨量が減少している様子が観察されました。
 多くの方々のご協力のおかげで、この度研究成果を発表することが出来ました。この場をお借りして、お礼申し上げます。
 今回の研究成果が将来、疾患の治療や予防に役立つことが出来れば幸いです。(岐阜薬科大学大学院機能分子学大講座 薬理学研究室・山田 孝紀)