日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 岩山 智明・村上 伸也

骨芽細胞は基質小胞をリソソームによって運搬・分泌している

Osteoblastic lysosome plays a central role in mineralization.
著者:Iwayama T, Okada T, Ueda T, Tomita K, Matsumoto S, Takedachi M, Wakisaka S, Noda T, Ogura T, Okano T, Fratzl P, Ogura T, Murakami S.
雑誌:Sci Adv. 2019 Jul 3;5(7):eaax0672.
  • 骨芽細胞
  • 基質小胞
  • 誘電率顕微鏡

岩山 智明・村上 伸也
産総研:本研究で使用した誘電率顕微鏡をバックに左から小椋俊彦上級主任研究員、岡田知子総括研究主幹。
大阪大学:岩山、村上。

論文サマリー

 組織が形成される石灰化初期過程においては、骨芽細胞から30-300nmの基質小胞が細胞外へと分泌されることが必須であると考えられている。しかしながら、nmオーダーの微小物質を観察できる電子顕微鏡では生細胞を直接観察することが不可能であり、生細胞を直接観察できる光学顕微鏡では微小物質の観察が困難である、という技術的なジレンマが存在しており、その形成・分泌過程については解明が進んでいなかった。

 そこで本研究では、このジレンマを突破し、石灰化過程における基質小胞の形成・分泌過程を明らかにするために、生きたままの細胞中の微小物質を直接観察できる走査電子誘電率顕微鏡(SE-ADM)および超解像蛍光顕微鏡を用いて、培養細胞が基質小胞を形成・分泌する過程を生細胞のままで可視化することを試みた。

 石灰化誘導培地で培養した骨芽細胞のSE-ADM観察の結果、生細胞中に顆粒の形成が認められ、経時的に顆粒数は増加し、そのサイズはこれまでの報告と一致していた。さらに形成初期の詳細な観察の結果、膜状構造物の内部に複数の顆粒が蓄積していき、細胞外では膜状構造物が消えていることから、エクソソームで見られるような多胞体構造をとることが示唆された。ついで、この顆粒について、エネルギー分散型X線分析やラマン分光顕微鏡による観察を行ったところ、この顆粒はCaとPを含み、ハイドロキシアパタイトに特徴的なラマンスペクトルのピーク位置が観察された。石灰化に必須の酵素であるアルカリフォスファターゼ遺伝子を欠失した細胞では顆粒が観察されないことからも、これらの顆粒が基質小胞であることが強く示唆された。

 さらに、顆粒が多胞体構造中に蓄積されることから、リソソームの阻害剤存在下で同様の実験を行ったところ、リソソームのV-ATPaseを阻害すると基質小胞は観察されず、リソソームのexocytosisを阻害すると、基質小胞が細胞内に蓄積して分泌されないことから、基質小胞がリソソーム中に形成され、運搬・分泌されることが示唆された。そこで、超解像蛍光顕微鏡を用いて、細胞内の挙動をタイムラプス撮影したところ、ミトコンドリア近傍で出現した基質小胞がリソソームと融合し、細胞内を運搬される過程が可視化された。以上より、基質小胞が細胞内に蓄積していき、リソソームによって運搬され、細胞外に分泌されている一連の過程が明らかになった。

岩山 智明・村上 伸也

著者コメント

 1967年に初めて電子顕微鏡による基質小胞の観察が報告されて以降、基質小胞の形成・分泌過程については、石灰化の基本的なメカニズムにも関わらず、解明が遅れていました。今回、産業技術総合研究所・小椋俊彦先生が開発された画期的な観察技術である「誘電率顕微鏡」を用いることで、生きた骨芽細胞のナノレベル観察が可能となり、石灰化初期過程を可視化することができました。大阪大学大学院歯学研究科、産業技術総合研究所、株式会社ライオン、Max Planck研究所との共同研究の成果です。骨代謝学会HPのBrave Heartに掲載された小澤英浩先生の論考(http://www.jsbmr.jp/brave_heart/08_hozawa.html)は大変心強く、この課題を前に進める原動力となりました。また、本研究に多大なるお力添えを賜りました皆様方に、この場をお借り致しまして御礼申し上げます。石灰化過程のさらなる解明にむけて、今後も精力的に取り組んで参りたいと存じます。(大阪大学大学院歯学研究科・岩山 智明・村上 伸也)