日本骨代謝学会

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リンによるリガンド非依存的なFGFR1の活性化はO型糖鎖付加を介してFGF23蛋白の分解を抑制する

Activation of unliganded FGF receptor by extracellular phosphate potentiates proteolytic protection of FGF23 by its O-glycosylation.
著者:Takashi Y, Kosako H, Sawatsubashi S, Kinoshita Y, Ito N, Tsoumpra MK, Nangaku M, Abe M, Matsuhisa M, Kato S, Matsumoto T, Fukumoto S.
雑誌:Proc Natl Acad Sci U S A. 2019 Jun 4;116(23):11418-11427. doi: 10.1073/pnas.1815166116.
  • リン
  • FGF23
  • FGFR1

髙士 祐一

論文サマリー

 我々の研究グループは、低リン血症性骨軟化症の一つである腫瘍性骨軟化症の原因液性因子として、線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor ; FGF)23を同定した。以後の研究により、FGF23は生理的な血中リン濃度の調節ホルモンであることが明らかとなった。しかし、FGF23の産生・分泌を担う骨、特に骨芽細胞・骨細胞がどのように血中リン濃度の変化を感知し、FGF23の産生・分泌を調節しているのかについては未解明であった。

 まず我々は、野生型マウスに高リン食を2週間摂取させると、血中リン濃度の上昇とともに血中FGF23濃度が上昇することを確認した。しかし驚くべきことに、高リン食により大腿骨におけるFgf23遺伝子の発現は不変で、Galnt3遺伝子の発現亢進が認められた。Galnt3遺伝子は、FGF23蛋白にO型糖鎖を付加する酵素をコードしており、Galnt3遺伝子産物によるFGF23蛋白へのO型糖鎖付加は、FGF23蛋白の分解を抑制するように作用することを我々は報告していた。したがって野生型マウスへの高リン食負荷は、FGF23そのものの遺伝子発現ではなく、Galnt3遺伝子産物を介したFGF23蛋白の分解抑制により、血中FGF23濃度を上昇させているものと考えられた。

 ここで骨芽細胞様細胞株であるUMR106細胞を用いたin vitroの研究に移行した。同細胞を用いたin vitroの系でも、細胞外リン濃度の上昇が、Galnt3遺伝子の発現亢進を惹起することが再現された。そこで我々は、Galnt3遺伝子がリン応答遺伝子であると考え、その上流の制御機構を探索することで、未知のリン感知機構を解明することを目指した。DNAマイクロアレイ解析により、リンはERKのリン酸化とその下流の転写因子EGR1、ETV5を誘導し、Galnt3遺伝子の発現亢進を惹起することを見出した。さらに、リン酸化プロテオミクスの技術を用いることで、ERKシグナルの上流としてFGF受容体(FGF receptor; FGFR)1を同定した。ターゲットMS解析により、リンはFGFR1のリン酸化を惹起することが明らかとなった。ここで興味深いことに、リンとは異なり、同じくFGFR1に結合して作用する古典的FGFRリガンドであるFGF2は、Galnt3遺伝子の発現亢進を惹起しなかった。したがって、リンとFGF2のFGFR1への作用には、何らかの相違が存在するものと考えられた。そこでFGFR1の下流に存在するFGF receptor substrate 2α(FRS2α)のリン酸化、さらにはその下流のERKのリン酸化様式を検討した。その結果、リンとFGF2によるFRS2αのリン酸化部位やリン酸化の時系列、さらにはERKリン酸化の時系列が異なることが明らかとなった。これらの結果は、リンと古典的FGFRリガンドは、同じFGFR1を活性化するものの、その下流シグナルや生物作用が異なることを示している。最後に、Fgfr1-floxedマウスおよびOsteocalcin-Creマウスを用いて後期骨芽細胞特異的Fgfr1ノックアウトマウスを作出し解析を行った。その結果、ノックアウトマウスでは、高リン食負荷に対する血中FGF23濃度の上昇、および大腿骨におけるGalnt3発現亢進が抑制されていることが明らかとなった。以上の成果から我々は、FGFR1は血中FGF23濃度調節のためのリン感知受容体であるとの結論に至った。

髙士 祐一
図1:リンは骨芽細胞・骨細胞においてFGFR1を介した細胞内シグナル伝達により血中FGF23濃度を調節する

著者コメント

 今から6年前、当時東京大学の福本誠二先生の研究室の門を叩き、大学院生として基礎研究を開始しました。その後福本先生の異動に伴い、当時松本俊夫先生がセンター長を務められていた徳島大学 藤井節郎記念医科学センターに国内留学させていただき、今日まで一貫して福本先生のご指導の下、本研究を続けて参りました。リン感知機構の解明を目指した本研究は、国内外を問わず多くの先生方との出会いと、多くの貴重な経験を私に与えてくれました。そして、多くの先生方のご協力を得て、ここまで来ることができました。最後になりましたが、これまでご指導いただきました福本誠二先生をはじめ、共著の先生方に心から感謝申し上げます。(福岡大学筑紫病院 内分泌・糖尿病内科・髙士 祐一)