日本骨代謝学会

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PTHによる酸化と下顎新生骨骨質に及ぼす影響

Intermittent parathyroid hormone 1-34 induces oxidation and deterioration of mineral and collagen quality in newly formed mandibular bone.
著者:Yoshioka Y, Yamachika E, Nakanishi M, Ninomiya T, Akashi S, Kondo S, Moritani N, Kobayashi Y, Fujii T, Iida S.
雑誌:Sci Rep. 2019 May 29;9(1):8041
  • 副甲状腺ホルモン
  • 骨質
  • 顎骨

吉岡 洋祐

論文サマリー

 顎顔面領域において副甲状腺ホルモン製剤(PTH)の間歇投与は新生骨の骨量および骨梁構造を向上させ骨治癒を促進させることが知られているが,酸化により影響をうけるアパタイトおよびコラーゲンの微細構造に及ぼす影響については明らかとなっていない.本研究ではPTHの間歇投与が酸化・抗酸化バランスおよび下顎新生骨のアパタイトおよびコラーゲンの微細構造に及ぼす影響を検討した.

 8週齢Wistar雌性ラットに卵巣摘出を施し,PTH群およびOVX群に分け,下顎枝に貫通孔を作製した.貫通孔作製1日後よりPTH30μg/kgまたは生理食塩水を連日1日1回皮下投与した.初回薬剤投与21日後に血液,下顎骨を採取した.血清を用いてd-ROMsテスト,BAPテストを行い,酸化力,抗酸化力を解析した.次いで上記の二つのテスト結果より算出される酸化・抗酸化バランスを示す酸化指数を解析した.下顎骨はMicroCTおよび顕微ラマン分光装置を用いて,骨梁構造およびアパタイト,コラーゲンの微細構造の解析を行った.

 OVX群と比較し,PTH群の血清では酸化力に有意差は認めなかったが,抗酸化力の有意な低下を認めた.また,両者の結果により算出される酸化指数の有意な増加を認めた.MicroCTにてOVX群と比較しPTH群の下顎新生骨では骨量,骨梁幅の有意な増加,貫通孔残存部面積の有意な縮小を認めた.顕微ラマン分光装置にてOVX群と比較しPTH群の新生骨では石灰化度,結晶性,コラーゲン構造の完成度の有意な低下,炭酸塩含有率の有意な増加を認めた.

 PTHは下顎新生骨の新生骨量,骨梁構造を向上させた一方で,酸化・抗酸化バランスを酸化に傾け,アパタイトおよびコラーゲンの微細構造に影響を与えた.顎顔面領域において,骨治癒促進を期待したPTHの臨床応用が検討される中で構造特性のみならず材質特性の変化に注意を払う必要性が示唆された.

吉岡 洋祐

著者コメント

 顎骨は同じ骨化様式をもつ他部位の骨と比較しても,骨代謝回転が速いことや歯牙の存在,咬合力が常に加わるなど部位特異的な性質を持っているため,他部位の骨とは異なる薬剤の影響が考えられます.顎顔面領域においてPTHによる骨治癒促進を報告した多くの論文が骨梁構造等の構造特性の向上から結論付けられていましたが,本研究では下顎新生骨の微小領域におけるアパタイトやコラーゲンの微細構造等の材質特性に着眼し解析を行いました.今回の研究によりPTHによる顎骨への作用の一端を示すことができたのではないかと考えております.
 本研究は松本歯科大学総合歯科医学研究所,岡山大学工学部無機材料化学講座の先生方との共同研究でありましたが,他施設,他部署の所属である不出来な小生に対して熱意を持って御指導いただいたことをこの場を借りて感謝を申し上げます.また,本研究を行う貴重な機会を与えて頂き,御指導を賜りました岡山大学大学院医歯薬学総合研究科顎口腔再建外科学分野 飯田征二教授,また,終始懇切なる御指導を頂きました岡山大学病院口腔外科(再建系)山近英樹講師に深く感謝の意を表します.(岡山大学病院口腔外科・吉岡 洋祐)