日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 茂久田 翔

E3ユビキチンリガーゼWwp2はRunx2を介して基質分解酵素Adamts5を抑制することで関節軟骨を維持する

Wwp2 maintains cartilage homeostasis through regulation of Adamts5
著者:Mokuda S, Nakamichi R, Matsuzaki T, Ito Y, Sato T, Miyata K, Inui M, Olmer M, Sugiyama E, Lotz M, Asahara H.
雑誌:Nat Commun. 2019 Jun 3;10(1):2429.
  • 関節軟骨
  • ユビキチン化
  • IVT mRNA

茂久田 翔
最左:著者、右手前:淺原弘嗣教授、ラボの近くにあるレストランにて

論文サマリー

 変形性関節症は関節疾患の中でもっとも罹患患者数の多い疾患であるにもかかわらず、有効な薬物療法は確立されていない。変形性関節症の病理変化の主体は関節軟骨の変性であり、その病態にはアグリカネースなどの軟骨基質分解酵素(Adamts5はその一つ)の発現増強が増悪因子として関与することが知られている。我々のグループでは、以前より軟骨組織に多量に発現しているイントロン型マイクロRNAのmiR-140、及び、その宿主遺伝子から転写されるHECT型ユビキチン化酵素のWwp2に着目して研究を行っていた(Inui, Mokuda, Nat Cell Biol. 2018)。Wwp2欠損マウスは胎生期では表現型を示さず、また、成体の軟骨での機能についても報告がなかったため、関節軟骨におけるWwp2の機能はほぼ未解明の状態であった。

 本研究では、CRISPR/Cas9法により作成されたWwp2ノックアウトマウス及びWwp2ユビキチン化酵素活性欠損マウスを用いて、関節軟骨におけるWwp2の機能を検討した。結果、これらの遺伝子改変マウスの関節軟骨組織ではRunx2とAdamts5の発現が増強していることが確認された。Runx2はAdamts5の主要な転写因子であり、Wwp2はRunx2をポリユビキチン化及び分解する機能を有し、それを介してAdamts5の発現を制御していることを実験的に明らかにすることができた(図1)。

茂久田 翔

 では、変形性関節症の治療に着目した場合、この分子メカニズムは臨床応用可能なのであろうか。我々のグループではこの疑問に答えるため、ヌクレオチドを基本骨格とし、対象のRNA等に直接作用することができる化合物である核酸医薬に注目した。本邦でも一部の神経疾患に対し治療薬として承認されている。我々のグループでは今回、試験管内で合成した人工的なWwp2のmRNA(免疫応答を抑制するために修飾核酸が含まれている)を関節腔内に投与することにより、関節軟骨においてWwp2を強制的に発現させる手法を開発した。この方法をマウスOAモデルに応用した結果、Wwp2 mRNAは関節軟骨の障害を軽減させた(図2)。また、この治療モデルにおいてもRunx2及びAdamts5の発現は抑制されており、Wwp2の軟骨基質分解酵素抑制効果を別の角度から確認することが可能であった。合成mRNAを利用することによって、in vitro及びin vivoともに軟骨細胞や軟骨組織への遺伝子の導入を比較的簡単に行うことができるため、有用な研究ツールの一つであると同時に、今後の治療応用への展開も期待できると考えられた。

茂久田 翔

 留学前は関節リウマチを含む膠原病等の関節疾患をテーマとして研究に従事して参りました。その後3年間、米国に留学することとなりましたが、淺原弘嗣先生、Martin Lotz先生のご指導のもと、幸運にも引き続き関節炎研究に携わらせていただくことができ、このような有意義な結果を発表できたことをうれしく思っております。軟骨の細胞・組織を扱うのは初めてでしたが、たくさんの先輩方に熱心にご指導いただき、実験に必要な技術を着実に身に着けることができたことが、今回の成功につながったのだと確信しております。米国スクリプス研究所、東京医科歯科大学、広島大学病院などの多くの関係者の皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。(米国スクリプス研究所分子医学部門 / 広島大学病院リウマチ・膠原病科・茂久田 翔)