日本骨代謝学会

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Scx+/Sox9+前駆細胞は軟骨と腱/靭帯の連結部の構築に寄与する

Scx+/Sox9+ progenitors contribute to the establishment of the junction between cartilage and tendon/ligament
著者:Yuki Sugimoto, Aki Takimoto, Haruhiko Akiyama, Ralf Kist, Gerd Scherer, Takashi Nakamura, Yuji Hiraki, and Chisa Shukunami
雑誌:Development. 2013 Jun;140(11):2280-8
  • Sox9
  • Scx
  • 腱・靭帯

杉本 由紀

論文サマリー

運動器において、腱は筋と骨を連結することによって筋の収縮力を骨に伝達し、靭帯は骨格間を連結して関節を安定化させている。発生過程では、軟骨、筋、腱、靭帯などの各コンポーネントは、まず、独立した原基として形成される。組織形成の進行に伴って、腱・靭帯は、骨と筋あるいは骨格間を連結するが、各コンポーネントの連結過程に寄与する細胞の特性は解明されていない。 SRY-box containing gene 9 (Sox9)は軟骨形成に不可欠な転写因子であるが、前駆腱・靭帯や骨芽細胞においても発現している。一方、basic helix-loop-helix型の転写因子であるScleraxis (Scx)は腱の成熟に重要な役割を果たしており、Scx発現領域でCreリコンビナーゼ(Cre)を発現するScxCreトランスジェニック(Tg)マウスを用いた解析から、腱・靱帯付着部近傍の軟骨細胞がScx+細胞由来であることが明らかになっている。本研究では、Sox9Scxの発現領域でCreを発現するマウスを用いて、Scx+/Sox9+細胞集団の特性と軟骨-腱・靱帯連結部形成における役割を解析した。 腱・靭帯、軟骨形成に先立つ胎生10.5日では、硬節の一部及び前肢芽の近位部にScx+/Sox9+細胞集団が認められた。腱・軟骨形成が進展する胎生14.5日になると、踵骨のアキレス腱との連結部には僅かにScx+/Sox9+細胞が残存するのみで、Sox9+細胞は軟骨に、Scx+細胞は腱・靭帯に限局していた。Scx+領域においてSox9+細胞の系譜を解析すると、中軸においては肋間筋腱、椎骨近傍の脊柱起立筋の腱、椎間板の外側線維輪が、四肢では靭帯、筋を骨格に固着させている短い腱及び長い腱の骨格への付着部がScx+/Sox9+細胞由来であった。一方、脊柱から離れた広背筋や胸腰筋膜の一部、横隔膜の胸骨部付近、長い腱の付着部から離れた部分はScx+/Sox9-細胞由来であった。すなわち、軟骨に近づくほどScx+/Sox9+細胞由来の腱細胞が多く存在し、付着部から離れた腱細胞はScx+/Sox9-細胞由来であった。 次に、腱・靭帯形成におけるScx+/Sox9+細胞の寄与を調べるために、Scx+細胞において特異的にSox9を欠失させたコンディショナルノックアウト(CKO)マウスを作成した。CKOマウスでは、周囲を腱に囲まれている肋骨や種子骨である膝蓋骨の欠損、腱・靱帯の軟骨への付着部や軟骨様の基質を有する内側線維輪の低形成が認められた。さらに、コントロールマウスでは、軟骨に隣接する腱付着部や椎間板の外側線維輪にSox9+細胞が存在したが、CKOマウスでは、これらの細胞が欠損しており、Scx+/Sox9+細胞が軟骨-腱・靱帯の連結部や椎間板の形成に寄与していることが示唆された。本研究より、Scx+/Sox9+細胞群は、腱細胞、靭帯細胞、軟骨細胞となる多分化能を有し、軟骨-腱・靭帯の連結部の構築に寄与することが明らかになった。

著者コメント

私は、鹿児島大学農学部獣医学科に在学中から、ずっと腱の形成や再生に興味を持っていました。京都大学の医学研究科博士課程に進学して、日本で腱・靱帯形成を分子レベルで解析出来る数少ない研究室の一つである再生医科学研究所の開研究室の門をたたきました。未開拓な分野なので、蛍光レポーターやCre recombinaseを発現するトランスジェニックマウスを自分で作成するところから始めたので苦労も多くありました。しかし、本当に大変だったのは、解析に必要な遺伝子改変動物が揃ってからでした。ScxCre;Sox9flox/floxマウスの表現型の解釈が難しかったので、直接に御指導いただいた宿南先生とは何度も議論を繰り返しました。時間はかかりましたが、開先生をはじめ共著の先生方のお力添えも頂きまして、Sox9/Scx陽性細胞は腱・靭帯と軟骨の連結部の形成に寄与することを明らかにしました。このテーマを通して研究を行う上で重要な事を学び、博士 (医学)の学位を習得できたことを光栄に思います。(広島大学大学院医歯薬保健学研究院基礎生命科学部門生体分子機能学・杉本 由紀)