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慢性腎臓病患者におけるPTHと胸腺萎縮の関係

Parathyroid hormone and premature thymus ageing in patients with chronic kidney disease.
著者:Iio K, Kabata D, Iio R, Imai Y, Hatanaka M, Omori H, Hoshida Y, Saeki Y, Shintani A, Hamano T, Isaka Y, Ando Y.
雑誌:Sci Rep. 2019 Jan 28;9(1):813.
  • PTH
  • 胸腺
  • 慢性腎臓病

飯尾 健一郎

論文サマリー

 慢性腎臓病(CKD)は、慢性に経過する腎臓病の総称であるが、腎機能が低下すると、骨ミネラル代謝異常(MBD)、尿毒素の蓄積、慢性炎症などを介して、心血管系合併症や感染症により死亡率が上昇することが知られている。CKD患者の免疫系は、胸腺萎縮をはじめとした免疫老化を呈する。胸腺機能が低下するとナイーブT細胞が減少し、感染応答の減弱だけでなく、動脈硬化にも関連するため、CKD患者の死亡率上昇に関与すると考えられる。PTHとFGF23は、骨ミネラル代謝異常(MBD)に関連するが、免疫細胞にも影響を与える。そこで、我々は、胸腺萎縮とMBDが関連すると考え検討した。

 我々は、125例の非透析CKD患者の末梢血または末梢血単核細胞中のCD3+CD4+CD45RA+CD31+細胞数[recent thymic emigrants(RTE)/μL]とMBD関連因子(PTH、FGF23、ALP)の関係を横断的に検討した。RTEは胸腺からでてきたばかりのT細胞であり、胸腺が委縮すると減少するため胸腺機能が低下しているとみなすことができる。

 eGFRの中央値は17 mL/min/1.73 m2であった。少ないRTEと相関があったのは、高い年齢(r=−0.46)、男性(r=−0.34)、低いeGFR(r=0.27)、低い補正カルシウム濃度(r=0.27)、高いPTH(r=−0.36)、高いALP(r=−0.20)であった。高い年齢・男性と胸腺機能低下の関連は既報と一致していた。低いeGFR・低い補正カルシウム・高いPTH・高いALPと胸腺機能低下との関連は二次性副甲状腺機能亢進症との関係を示唆した。ところが、FGF23・リン濃度はRTEとは相関しなかった。非線形重回帰分析(年齢、性別、eGFR、補正カルシウム濃度、リン濃度、リン吸着薬の服用、活性型ビタミンD製剤服用で補正)では、PTHはlog変換したRTEと関連を認めた(P = 0.030, P for non-linearity = 0.124)(図)。しかし、FGF23とALPはRTEと関連しなかった。

飯尾 健一郎
CKD患者におけるLnRTEまたはRTE%とMBD関連因子[PTH(A)、FGF23(B)、ALP(C)]との関係を非線形重回帰分析で解析

 CKD患者においては、血清PTH濃度は、免疫異常を起こしうる胸腺機能低下と関連した。その機序に関しては、PTH受容体による胸腺への直接作用や、造血幹細胞への作用を介するものが推測された。

 CKD患者の死亡率上昇に慢性炎症など免疫異常が関与していますが、CKDのどの病態が免疫異常に関連するか明らかではなかったため、これを明らかにしたいと思い本研究を開始しました。大阪南医療センターの臨床研究部には、フローサイトメーターを有していたため、末梢血や末梢血単核細胞の解析を行うことができました。時間はかかりましたが、免疫異常とCKDの関連の一端を示すことができたのではないかと考えています。最後に、未熟な統計解析を直してくださった加葉田大志郎先生、新谷歩先生、本研究を進めていくためご指導および研究環境を与えてくださった、濱野高行先生、猪阪善隆先生、佐伯行彦先生、安東豊先生にはこの場をお借りして感謝申し上げます。(大阪南医療センター腎臓内科・飯尾 健一郎)