日本骨代謝学会

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破骨細胞と骨芽細胞の“trans-pairing”により頭蓋底骨が形作られる

Trans-pairing between osteoclasts and osteoblasts shapes the cranial base during development.
著者:Edamoto M, Kuroda Y, Yoda M, Kawaai K, Matsuo K.
雑誌:Sci Rep. 2019 Feb 13;9(1):1956. doi: 10.1038/s41598-018-38471-w.

枝元 美緒

論文サマリー

 頭蓋骨などの骨は、発達中の隣接臓器を包み込むように成長することから、骨の形作りには隣接臓器からのメカニカルストレスが介在していると考えられる。我々は、頭蓋底の底後頭骨をモデルに、「骨が脳の成長とどのように呼応して形作られるのか」を細胞レベルで明らかにすることを目的とした。

 正常なマウスの頭蓋底は内軟骨性骨化により形成され、脳を載せる。授乳期マウス頭部を、コントラスト染色法を用いてマイクロCTで解析したところ、底後頭骨は2枚の皮質骨から構成されており、背側は脳幹に、腹側は頭長筋に接していた。このことから、骨モデリング期の底後頭骨は成長する脳幹からの圧力を背側から受けていることが推測された。

 背側からの圧力と骨形成の関係を明らかにするために、離乳前の仔マウスの組織染色を行ったところ、底後頭骨の皮質骨において、背側(脳側)に破骨細胞、腹側(咽頭側)に骨芽細胞が観察された。この細胞局在とメカニカルストレスの関係性を調べるため、底後頭骨のマイクロCT画像をもとに有限要素法によるシミュレーションを行った。圧縮応力は主に背側に出現し、それは底後頭骨における破骨細胞の酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性の分布とよく一致した。一方、伸展応力は主に腹側に出現し、骨形成部位と合致していた。以上から、圧縮応力と破骨細胞、伸展応力と骨芽細胞が対応することが示唆された。

 続いて、破骨細胞欠損マウスを用いて細胞局在を観察した。野生型マウスでは背側に破骨細胞、腹側に骨芽細胞が出現するのに対し、欠損マウスでは、破骨細胞が観察されないだけでなく骨芽細胞の分布が無秩序であった。また、カルセインとアリザリンコンプレクソンを用いた生体二重標識法によると、野生型ではそれぞれの皮質骨の腹側で骨形成が起きていたが、欠損マウスでは、骨形成が低下し、腹側に特異的な骨形成が失われていた。これらのことから、背側の破骨細胞の存在が、腹側の秩序立った骨芽細胞の細胞局在に必要であると考えられた。このことは、野生型マウスへ抗RANKL抗体を投与する実験でも確かめられた。実際、細胞の局在が乱れた破骨細胞欠損マウスの底後頭骨は傾斜(斜台)の形成が不十分であったことから、「隣接臓器からのメカニカルストレスに呼応した破骨細胞と骨芽細胞骨の秩序立った局在」が骨の形作りに非常に重要であることが示された。

 以上の結果から、我々は破骨細胞の骨吸収面と骨芽細胞の骨形成面が、皮質骨を挟んで向き合っている状態を“trans-pairing”と命名した。“裏で吸収して表で形成する”trans-pairingは、隣接臓器の発達に対応した骨を形作る普遍的な基盤であると考えられる。

枝元 美緒
図a:生後14日齢マウス 頭部骨のマイクロCT画像
図b:底後頭骨模式図
図c:MMP-9陽性の破骨細胞(マゼンタ、矢印)とCol1a1-GFP陽性の骨芽細胞(緑、矢頭)は皮質骨を挟んで“trans-pairing”している

 大学在学中に骨の形態形成に興味を持ち、頭蓋底の骨に着目して研究を始めました。骨のカップリングと言えば、「破骨細胞が壊した骨表面を、後から骨芽細胞が補修する」ことを指しますが、「トランスペアリング」は、「骨の裏を壊すと同時に表を作る」ようなものです。骨代謝学会で発表することを目標に研究を重ねていましたが、今回論文として形に残すことができて大変嬉しく思っています。骨に対する謎と興味は深まるばかりです。ご指導頂きました慶應義塾大学医学部細胞組織学研究室、そして日本骨代謝学会の先生方に、厚く御礼申し上げます。(慶應義塾大学医学部 細胞組織学研究室・枝元 美緒)