日本骨代謝学会

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骨細胞Sema3Aによる自己調節はエストロゲン作用を調整し骨老化と拮抗する

Autoregulation of Osteocyte Sema3A Orchestrates Estrogen Action and Counteracts Bone Aging
著者:Hayashi M, Nakashima T, Yoshimura N, Okamoto K, Tanaka S, Takayanagi H.
雑誌:Cell Metab. 29, 627–637, 2019
  • Semaphorin3A
  • 骨細胞
  • エストロゲン

林 幹人

論文サマリー

 骨細胞は骨恒常性に重要な役割を担っており、閉経や加齢などでの骨量減少は骨細胞の機能的な障害と関連することが知られている。一方、骨細胞におけるエストロゲンシグナルの重要性は明らかであるが、エストロゲンが骨細胞による骨代謝制御に関わるメカニズムは不明な点が多く残されていた。また、筆者らは以前、液性タンパク質である軸索ガイダンス因子Sema3Aが受容体Nrp1を介して骨吸収と骨形成を協調的に制御する骨保護因子であることを報告したが、その産生源に関しては不明のままとなっていた。

 まず、これまでの報告では神経系細胞由来Sema3Aの発生段階における役割が示されてきたが、筆者らは生後に全身でSema3Aを欠損させたマウスでも有意な骨量の低下を示すことを見出し、生後のSema3A発現の重要性が明らかになった。この結果と一致して、生後の骨芽細胞系列細胞特異的Sema3A欠損マウスや、間葉系前駆細胞特異的Sema3A欠損マウス、骨芽細胞系列細胞特異的Nrp1欠損/変異マウスでも、骨吸収の上昇と骨形成の低下を伴う有意な骨量減少が観察されたことから、成体における骨芽細胞系列細胞特異的なSema3A-Nrp1シグナルの重要性が明らかになった。

 次に、筆者らはSema3Aの発現制御機構を調べるために様々な解析を行い、骨芽細胞・骨細胞に対するβ-エストラジオール(E2)刺激によりmiR-497とmiR-195(これらは同一配列を標的とする)が発現低下し、それによりSema3A発現が上昇していることを見出した。また、卵巣摘出マウスではSema3Aタンパク質発現が低下し、E2投与によりこの効果がレスキューされた。実際に、閉経後女性における血中Sema3A量を調べたところ、閉経前女性の血中量よりも有意に低いことが明らかになった。さらに、骨芽細胞系列細胞特異的Sema3A欠損マウスに対し卵巣摘出を行ったり、さらにE2を補充したりしても骨量に有意な変化が見られないことも確認された。これらの結果から、Sema3Aがエストロゲンによって発現制御され、そのSema3Aは骨量維持に重要な役割を担っている可能性が示された。

 性ホルモンに加えて、骨密度のもう一つの重要な決定要因は加齢であることから、加齢とSema3A発現量の変化を検討したところ、ヒトでもマウスでも加齢に伴うSema3Aタンパク質血中量の低下を確認できた。そこで、高齢マウスにおいて骨芽細胞特異的、もしくはDmp1-Creにより骨細胞特異的なSema3A欠損マウスを作製し解析した。加齢状態での骨芽細胞特異的Sema3A欠損マウスでは骨量に有意な変化が観察されなかった一方、骨細胞特異的なSema3A欠損マウスやNrp1欠損/変異マウスの骨量は若齢では正常であるものの、加齢に伴って極めて重度の骨減少症をきたすことが明らかになった。以上から、高齢マウスでは主に骨細胞がSema3Aを産生し、自身や周囲の骨細胞に作用して骨量維持効果を発揮する可能性が示唆された。

 次に、どのような原因で骨量減少に至ったのかを調べたところ、これらのマウスでは骨細胞死が促進されることで骨細胞数が著明に減少していることを見出した。そこで、IDG-SW3細胞に対してSema3A刺激を加えると、可溶型グアニル酸シクラーゼ(sGC)活性化が誘導され、環状グアノシン一リン酸(cGMP)産生を介した生存シグナルが活性化することが明らかになった。さらに、卵巣摘出した骨芽細胞系列細胞特異的Sema3A欠損マウスにsGC活性化剤を投与すると、骨細胞の数が上昇し骨量減少が有意に抑制されることが明らかになった。

 これらの結果から、骨細胞が産生するSema3Aは特に加齢状態において、骨芽細胞分化や破骨細胞分化に対する影響に加え、骨細胞自身に発現するNrp1を介して細胞生存を維持し、自己制御性ループを形成することで骨保護作用を発揮することが明らかになった。

林 幹人

 本研究は、老齢マウスの解析に時間を要するとはいえ、約5年もかかってしまいました。計画的な実験計画の立案作成が必要であることを痛感致しました。また、本研究推進にあたり、直接的・間接的に多大なるお力添えを賜りました皆様方に、この場をお借り致しまして御礼申し上げます。(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学・林 幹人)