日本骨代謝学会

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CSF1R遺伝子の両アレルの変異は、異骨硬化症-パイル病のスペクトラムの骨系統疾患と脳奇形を伴う変性性白質脳症を起こす

Bi-allelic CSF1R Mutations Cause Skeletal Dysplasia of Dysosteosclerosis-Pyle Disease Spectrum and Degenerative Encephalopathy with Brain Malformation.
著者:Guo L, Bertola DR, Takanohashi A, Saito A, Segawa Y, Yokota T, Ishibashi S, Nishida Y, Yamamoto GL, Franco JFDS, Honjo RS, Kim CA, Musso CM, Timmons M, Pizzino A, Taft RJ, Lajoie B, Knight MA, Fischbeck KH, Singleton AB, Ferreira CR, Wang Z, Yan L, Garbern JY, Simsek-Kiper PO, Ohashi H, Robey PG, Boyde A, Matsumoto N, Miyake N, Spranger J, Schiffmann R, Vanderver A, Nishimura G, Passos-Bueno MRDS, Simons C, Ishikawa K, Ikegawa S.
雑誌:Am J Hum Genet. 2019 May 2;104(5):925-935. doi: 10.1016/j.ajhg.2019.03.004.
  • CSF1R
  • 異骨硬化症
  • 白質脳症

郭 龍

論文サマリー

 理化学研究所(理研)・生命医科学研究センター・骨関節疾患研究チームの郭龍研究員、池川志郎チームリーダーらの研究チームは、骨と脳を侵す新たなタイプの難病の原因遺伝子CSF1R を発見し、CSF1R(コロニー刺激因子1受容体)の機能喪失が、広範かつ多様な骨格系と脳神経系の異常を引き起こすことを明らかにした。

 研究チームでは、全世界から原因遺伝子が未知の骨関節の難病の臨床データを収集している。最近収集した患者の中に、共通の骨格系と脳神経系の異常を持つ3家系7人の患者を発見した。骨格には、全身の骨硬化(骨の濃度の上昇)、脊椎の形成障害、長管骨と短管骨の骨幹端部の拡大などの特徴的な異常が、脳には、脳室周囲の石灰化を伴う白質脳症様の神経変性とダンディ・ウォーカー奇形などの脳奇形が認められた(図1)。このような骨格系と脳神経系の異常の組み合わせは過去に報告がなく、新たな疾患であると考えられた。

郭 龍
CSF1R遺伝子の機能喪失変異によって起こる骨と脳を犯す新たなタイプの難病の表現型

 この疾患の原因遺伝子を同定するために、次世代シーケンサーを用いた大規模ゲノム解析を行った結果、7人の患者全員がCSF1R遺伝子の両方の対立遺伝子座位(アレル)に変異を持つことを発見した。家系1の患者は、ナンセンス変異c.1441C>T(p.Gln481*)とミスセンス変異c.395C>T(p.Pro132Leu)の複合ヘテロ接合体、家系2の患者は、イントロン変異c.1859-119G>A(p.S620C_T621ins39)と1アミノ酸の欠失変異c.1879_1881del(p.Lys627del)の複合ヘテロ接合体、家系3の患者は、イントロン変異c.1969+115_1969+116delAG(p.P658Sfs*24)のホモ接合体だった。

 これらの五つの変異の機能解析を行ったところ、いずれも遺伝子の機能を喪失することが分かった。p.Gln481*とp.P658Sfs*24では、ナンセンス変異により、CSF1RのmRNAの分解が起こり、CSF1Rの発現量が著しく低下した。ナンセンス変異以外の三つの変異では、CSF1-CSF1Rシグナルの指標であるJNKのリン酸化が低下し、CSF1Rの機能が低下することが分かった(図2)。

郭 龍
変異によるCSF1R機能の低下

 CSF1Rの片方のアレルの変異は、神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS)という遅発性の神経変性疾患を引き起こすことが知られていたが、CSF1Rがヒトの骨格に与える異常については分かっていなかった。CSF1-CSF1Rシグナルは、単球/マクロファージ系列の細胞の生存・分化・増殖に関与する。CSF1Rは骨では破骨細胞に、中枢神経ではミクログリアに強く発現していることから、これらの細胞の機能不全が、この新しい疾患の多彩な表現型を作り出すと考えられる。

 私は、9年前に文科省奨学金で日本に留学しました。博士号が日本一取り難いと言われる京都大学医学研究科で6年間苦闘した後、理研でポスドクのキャリアを始めました。池川チームの研究は、臨床と非常に緊密に協働しています。京大・開研究室での骨・軟骨の基礎研究の経験と中国での外科医師としての臨床経験を持っている私にとっては、とても活躍しやすい分野です。
 今回の研究は先行する競争者がいて、時間の面で大変でした。最終的に同じ雑誌に我々の論文が”Original article”、競争者の論文が格下の“Report”として掲載されたのですが、投稿日は、競争者が1ヶ月先、acceptは我々が4日先でした。池川先生の指導と多くの共著の先生方のご協力のおかげで、競争に負けずに済みました。心より感謝申し上げます。(郭 龍・理化学研究所)