日本骨代謝学会

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Zscan10はハプトグロビンの転写を介して破骨細胞分化を負に制御する

Zscan10 suppresses osteoclast differentiation by regulating expression of Haptoglobin.
著者:Yanagihara Y, Inoue K, Saeki N, Sawada Y, Yoshida S, Lee J, Iimura T, Imai Y.
雑誌:Bone 2019 May;122:93-100. doi: 10.1016/j.bone.2019.02.011.
  • 破骨細胞分化
  • Zscan10
  • ハプトグロビン

柳原 裕太

論文サマリー

 我々の研究室では、ゲノムワイドなクロマチン構造変換情報解析から、破骨細胞分化における新規転写因子としてZinc finger and SCAN domain containing 10(Zscan10)を同定してきた(Inoue K et al. JBMR 2014)。Zscan10は多能性幹細胞の未分化性やゲノム安定性の維持に関与することが報告されているものの、他の細胞種における役割については大部分が不明である。今回我々はCRISPR/Cas9によりZscan10を欠損させたRAW264細胞 (KO細胞)を樹立し、その機能について解析した。

 分化誘導後のKO細胞ではCtrl細胞と比較して破骨細胞分化マーカーのmRNA発現量、破骨細胞の大きさと数、TRAP活性は顕著に増加しており、破骨細胞分化の促進が認められた(図1)。さらに、分化抑制関連遺伝子のmRNA発現量は分化誘導前から変動しており、KO細胞では分化誘導前の遺伝子発現プロファイルの変化が破骨細胞分化促進に寄与しているのではないかと考えられた。そこで、RNA-seqにより分化誘導前のKO細胞の網羅的遺伝子発現解析を実施した。その結果、Ctrl細胞と比較してKO細胞では173遺伝子の発現量が1/2以下に減少、87遺伝子の発現量が2倍以上に増加していた。これらの遺伝子群のGene ontology解析を実施した結果、減少した遺伝子群は免疫系システムに関与している遺伝子が多く含まれており、減少遺伝子群がKO細胞の分化促進という表現型に深く関与していると考えられた。そこで、発現が減少した遺伝子群が、転写因子であるZscan10により直接制御されるのか検索するため、RNA-seqデータに加え、Zscan10結合塩基配列モチーフのゲノムワイド情報およびRAW細胞のクロマチン構造変換を解析したDNase-seqデータを組み合わせ、統合的なゲノムワイド解析を行った。その結果、Zscan10の欠損により遺伝子発現が低下し、遺伝子座近傍ゲノム領域に結合モチーフ及びクロマチン構造変換を伴う遺伝子としてHaptoglobin (Hp)を同定した。さらにリコンビナントHpをKO細胞および骨髄細胞由来初代培養破骨細胞に添加し解析した結果、破骨細胞分化が抑制された(図1)。これまでの結果から、Zscan10はHpの転写を直接的に制御することで、破骨細胞分化を負に制御していることが、Zscan10 KO細胞における分化促進の一因であることが明らかとなった。

柳原 裕太

 これまでにHp KOマウスでは骨量の減少及び破骨細胞数の増加を呈し、Hpが破骨細胞分化の抑制に関与すること、Hpが低値を示す溶血性貧血の患者では、骨量の減少を引き起こすことが報告されている。以上のような報告から、生体においてもHpが骨代謝に対し保護的作用を示すことが示唆された。

 私は研究者を支える技術職員として愛媛大学の動物実験センターで勤務しております。縁あって病態生理学講座の大学院生として研究をさせていただけることになりました。
  今回、報告させていただいた論文は私の初めての論文です。試行錯誤しながら結果を積み重ね、その結果から考察し、新たな実験を進めるという工程はとても楽しかったです。はじめは研究されている先生方はどんなことをしているのだろうという興味から進学しましたが、今では自分が研究にハマってしまいました。これからも研究を続け、一つでも多くの発見をしていきたいと思っています。
  ご指導いただきました今井先生をはじめ、共著者の皆様に心より感謝しております。(愛媛大学学術支援センター 動物実験部門・柳原 裕太)