
RANKL誘導性破骨細胞の分化過程においてPU.1はIRF8、NFATc1と協調してクロマチン状態を決定する
著者: | Izawa N, Kurotaki D, Nomura S, Fujita T, Omata Y, Yasui T, Hirose J, Matsumoto T, Saito T, Kadono Y, Okada H, Miyamoto T, Tamura T, Aburatani H, Tanaka S. |
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雑誌: | J Bone Miner Res. 2019 Feb 5. doi: 10.1002/jbmr.3689. |
- 破骨細胞
- エピジェネティク
- PU.1
論文サマリー
細胞の分化過程では、ヒストン修飾に代表されるエピジェネティクスの変化がクロマチン構造に作用し、転写因子との相互作用によって遺伝子発現を制御する。我々はRANKL刺激によるマウス骨髄マクロファージから破骨細胞分化系を用いて、ヒストン修飾・クロマチン構造・転写因子結合を網羅的に解析し、エピジェネティクスの変化と遺伝子発現制御の全体像を明らかにした。
破骨細胞分化過程における活性化制御領域
H3K27acはpolycomb-repressive complex 2 (PRC2)を形成して、転写を抑制するH3K27me3に拮抗し、転写の活性化に関与することが知られており、H3K27acに対するChIP-seqを行って骨髄マクロファージと破骨細胞の活性化制御領域を同定した。さらにFAIRE-seqを行って転写因子が結合しやすい、ヌクレオソームのない領域(nucleosome-free regions; NFRs)を特定し、H3K27acとNFRsの共通領域における新規結合モチーフ解析を行った。その結果、骨髄マクロファージ固有領域、破骨細胞固有領域、共通領域のいずれにおいてもPU.1の結合モチーフが濃縮していた。一方、PU.1-IRF複合体の結合モチーフは骨髄マクロファージ固有領域で、NFATc1-AP1の結合モチーフは破骨細胞固有領域に濃縮していた。PU.1、PU.1-IRF8、NFATc1の既知の結合モチーフについて、H3K27acピークの骨髄マクロファージ、破骨細胞それぞれの固有領域および共通領域について解析すると、PU.1モチーフは全ての領域で、PU.1-IRF8モチーフは共通領域と骨髄マクロファージ固有領域で、NFATc1モチーフは破骨細胞固有領域で濃縮を認めた。(図1)
骨髄マクロファージと破骨細胞におけるPU.1結合領域
いずれの領域でもPU.1モチーフの濃縮を認めたため、破骨細胞におけるPU.1の役割をより詳細に解析する目的でPU.1のChIP-seqを行った。PU.1結合領域のうち、骨髄マクロファージに固有のもの、破骨細胞に固有のもの、いずれにも存在する共通のものにつきそれぞれ新規モチーフ解析を行ったところ、骨髄マクロファージ固有のPU.1結合領域ではPU.1-IRF8の結合モチーフが、共通のPU.1結合領域ではIRF結合モチーフが、破骨細胞固有のPU.1結合領域ではNFATの結合モチーフが濃縮していた。この結果から、RANKL誘導性破骨細胞分化の過程において、PU.1がIRF8からNfatc1へ転写因子のパートナーを切り替えることにより、それぞれの細胞特異的な遺伝子発現を制御している可能性が考えられた。
NFATc1とIRF8の結合領域
NFATc1は破骨細胞分化におけるマスター転写因子であり、一方IRF8はRANKL誘導性破骨細胞分化を抑制的に制御する。これら2つの転写因子に対するChIP-seqを行い、解析を行った。PU.1結合領域のうち、骨髄マクロファージでは結合があるが破骨細胞では結合がない領域を抽出すると、これらの領域で骨髄マクロファージではIRF8が結合していたが、破骨細胞でのNfatc1の結合は認めなかった。逆に破骨細胞のみでPU.1の結合する領域では、骨髄マクロファージでのIRF8の結合はなく、破骨細胞でのNfatc1の結合が認められた。(図2)
NFATc1結合領域とIRF8結合領域の近傍の遺伝子群に対してGene Ontology解析を行ったところ、IRF8制御遺伝子群は骨髄マクロファージにおいて免疫反応や自然免疫応答に関連しており、一方NFATc1関連遺伝子群は破骨細胞において破骨細胞分化制御に関連していた。
結論
本研究は東京大学整形外科学教室田中栄教授のご指導のもと、次世代シーケンサーを用いたゲノムワイドデータの取得については東京大学先端科学技術研究センターゲノムサイエンス分野油谷浩幸教授、野村征太郎先生に、データ解析については横浜市立大学免疫学教室の田村智彦先生、黒滝大翼先生にご指導、ご尽力をいただいて遂行されました。
研究開始当初、骨代謝分野での分子生物学的研究は個々の遺伝子に注目して詳細に解析する手法が主流であり、ゲノムワイドな網羅的研究はその解析手法から試行錯誤の連続でしたが、多くの先生方とのディスカッションを通じて論文という形にまとめられたことは得難い経験となりました。(JCHO湯河原病院リウマチ科・伊沢 直広)