日本骨代謝学会

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ビタミンDとマクロファージが骨髄線維症の進展を制御する

Vitamin D receptor-mediated skewed differentiation of macrophages initiates myelofibrosis and subsequent osteosclerosis
著者:Wakahashi K, Minagawa K, Kawano Y, Kawano H, Suzuki T, Ishii S, Sada A, Asada N, Sato M, Kato S, Shide K, Shimoda K, Matsui T, Katayama Y.
雑誌:Blood. 2019 Apr 11;133(15):1619-1629. doi: 10.1182/blood-2018-09-876615.
  • ビタミンD
  • マクロファージ
  • 骨髄線維症

若橋 香奈子
第37回米国骨代謝学会のYoung Investigator Award授賞式

論文サマリー

 骨髄線維症はJAK2V617F変異に代表される骨髄増殖性疾患の経過上で呈する疾患であり、骨髄腔が線維によって占拠され、しばしば骨梁の増加(骨硬化)を合併する。長期間の無症候性の血球増多を経たのちに脾腫、血球減少、白血病化といった転機を迎えるが、その病態生理については詳細に解明されておらず、根治療法は骨髄移植のみであるという難治性疾患である。線維化の原因としては、増殖した巨核球から産生されるTGFβやPDGFといったサイトカインが線維芽細胞を刺激することが報告されてきた。しかし、これではなぜ骨硬化を合併するのかを説明することはできず、我々は骨髄線維症と骨代謝に着目して研究を進めた。

 我々の研究室では造血と骨代謝の研究を行う中で、ビタミンD受容体欠損(VDR-/-)マウスにおいて骨髄の造血幹/前駆細胞の末梢循環への動員が阻害されることを報告した。この研究の中で放射線照射したVDR-/-マウスをレシピエントとして、野生型の骨髄を移植するとVDR-/-レシピエントマウスが骨硬化を伴った骨髄線維症に進展することを発見した(図1)。この骨髄線維症モデルの解析により、線維組織がマクロファージとosterix陽性の骨芽細胞系列へと傾いた線維芽細胞(本質的には前骨芽細胞と思われる)によって構成されていることを突き止めた。これまでマクロファージが骨芽細胞のサポーターであることが報告されていたことから、我々はマクロファージが線維芽細胞の増殖に重要な役割を担っていると考え、解析を進めた。そして、VDR-/-マウスの血中ビタミンD濃度が非常に高く、この強いビタミンD刺激に晒された野生型の造血幹細胞が病的なマクロファージへと分化し、このマクロファージが線維産生細胞としての骨芽細胞を刺激し、線維化および骨硬化を引き起こすことを見出した。また、低ビタミンD食による飼育やマクロファージの除去により、骨髄線維症の発症を阻害できることが分かった。

若橋 香奈子
(図1)VDR-/-マウスをレシピエントとして野生型骨髄を移植すると骨髄線維症に進展する
野生型マウスの骨髄は丸い血液細胞で構成されている。VDR-/-マウスの骨髄は紡錘形の線維芽細胞とコラーゲン線維で占拠されている。

 また、JAK2V617Fトランスジェニック(Tg)マウスにおいても検討を行った。このマウスは骨髄増殖性腫瘍患者とほぼ同様の病態を呈し、骨髄線維症および骨硬化を生じる。JAK2V617F TgマウスにおいてもビタミンDの供給遮断(低ビタミンD食での飼育)やVDRシグナルの遮断(血液細胞でのVDR欠損)、またマクロファージを抑制することによって、骨髄の線維化を非常に効果的に予防できることが分かった(図2)。

若橋 香奈子
マクロファージ除去はJAK2V617F Tgドナーの骨髄移植により発症する骨髄線維化を阻害する
JAK2V617F Tgマウスで、マクロファージ除去なしでは線維が渡銀染色で黒く染まっている。デジタル化した写真では青い部分が線維化を示す。マクロファージを除去すると線維化の部分がほとんど見られない。

 以上の結果から、骨髄線維症の進展にはこれまで報告されている巨核球による刺激とは別に、ビタミンD刺激により分化する病的マクロファージが重要な働きを担っていることを発見した(図3)。本研究により、ビタミンD経路やマクロファージをターゲットとした新たな治療法の開発が期待される。

若橋 香奈子
骨髄線維症/骨硬化症の発症メカニズム
造血システムと造骨システムの臓器連関に生じた進行性のひずみよって発症する。

 この研究が始まったきっかけは偶然にも骨髄移植後のVDR-/-マウスが骨髄線維症に進展したことでした。移植された野生型の骨髄細胞がVDR-/-マウスの高いビタミンDに暴露されることがこの現象のトリガーになっているという発想に、長い紆余曲折の末に辿り着いた時にはパッと目の前の世界が開けたようでした。その後も移植実験が中心手技であったこともあり、一つ一つの実験を進めるのに非常に長い年月が必要でした。しかし、偶然を見逃さずにそこから新たな知見を追求するという姿勢を学べたことは私にとってとても幸運だったと思います。そして『思い込みを捨てなさい。自分で確かめ、真実を見つけて、教科書を書き換えていきなさい。』と指導してくださった片山先生をはじめ、私を支えて下さった神戸大学血液内科のメンバー、共著者の方々にこの場を借りて感謝申し上げます。(若橋 香奈子・神戸大学血液内科)