日本骨代謝学会

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骨粗鬆症はラット椎体皮質骨のコラーゲン/アパタイト配向性とヤング率を変化させる

Osteoporosis Changes Collagen/Apatite Orientation and Young's Modulus in Vertebral Cortical Bone of Rat.
著者:Ozasa R, Ishimoto T, Miyabe S, Hashimoto J, Hirao M, Yoshikawa H, Nakano T.
雑誌:Calcif Tissue Int. 2019 Apr;104(4):449-460.
  • 骨粗鬆症
  • コラーゲン/アパタイト配向性
  • オステオサイト

小笹 良輔
工学側: 写真左より石本卓也 先生、宮部さやか 先生、小笹良輔(著者)、中野貴由 教授 (大阪大学大学院工学研究科)
医学側: 写真左より平尾眞 先生、吉川秀樹 教授 (大阪大学大学院医学系研究科)、橋本淳 先生 (大阪南医療センター)

論文サマリー

 本論文は、骨質指標の一つと考えられる骨基質の配向性(コラーゲン線維とアパタイト結晶の配列度合いと3次元優先配向方向)と骨強度(ヤング率)が骨粗鬆症において著しく変化することを示した論文である。特に、骨粗鬆症骨により配向性が最適値から上下することで骨強度も変化し、骨折リスクが上昇することを提案している。エストロゲン欠乏では、力学機能適応により配向性が上昇するが、変動的な荷重に対して骨は弱くなる。一方で、カルシウム・リン欠乏では、骨は適応機能を失い配向性が低下する。特にカルシウム・リン欠乏では、オステオサイトの機能不全が骨基質の配向性と骨強度を低下させるが、同時にオステオサイトが配向性を決定する起点となっていることをも示している。

 これまでに、当研究グループでは、骨組織は骨の種類や解剖学的部位に応じて特有の骨基質配向性を有し(Nakano T et al., Bone (2002) 31: 479-487)、配向性は骨力学機能に強く相関する(Ishimoto T et al., J Bone Miner Res (2013) 28: 1170-1179)ことを証明している。著者らは、配向性変化とその要因の解明が、代謝性骨疾患における正確な骨強度評価や病態の理解につながると考えている。本論文では、卵巣摘出によりエストロゲン欠乏状態を再現した原発性骨粗鬆症(OVX)、カルシウム・リン栄養障害による続発性骨粗鬆症(LCaP)、および複合要因(OVX+LCaP)のモデルラットに対して、複屈折顕微鏡法、微小領域X線回折法、ナノインデンテーション法などの材料工学的手法を駆使することで、骨粗鬆症における骨材質特性変化を解明した(図1)。

小笹 良輔
図1 材料工学的手法により、配向性とヤング率はエストロゲン欠乏では増加し、カルシウム・リン欠乏では低下することを明らかにした。

 OVX群では、骨密度は低下するが、椎体頭尾軸方向(主応力方向)への配向性を上昇し、その方向に沿って骨強度(ヤング率)は上昇した。つまり、OVX群では、骨量減少を補填するためにコラーゲン/アパタイトが過度に配向化し、骨は主応力方向へ力学機能適応するが、他方向からの突発的な変動荷重に対しては脆弱性を示すものと理解される。対照的に、LCaP群とOVX+LCaP群は、椎体頭尾軸に沿った配向性とそれに関係するヤング率を異常低下し、主応力方向からの荷重に対する抵抗力を失う。

 こうした配向性の正常値からの変動は、応力センサとしてのオステオサイトの応力感受状態によって説明される(図2)。いずれの骨粗鬆症モデルにおいても、骨量減少にともない骨への負荷応力は増大するが、正常なオステオサイトを有するOVX群は機能適応により配向性を上昇する一方で、LCaP群とOVX+LCaP群では異常状態のオステオサイトが増加し、機能適応機構は破綻した。つまり、本論文は、オステオサイトはin vivo応力分布に応じて、骨量・骨密度のみならず骨基質の配向性を決定することについても示唆している。

小笹 良輔
図2 オステオサイトはカルシウム・リン欠乏により異常化する。

 本知見は、骨粗鬆症が病態に応じて、骨質指標としての配向性を変化させることで、骨力学特性にも影響を与えていることを証明する(図3)とともに、骨基質配向性が骨粗鬆症の診断・創薬の開発にも有効な指標であることを示している。

小笹 良輔
図3 骨粗鬆症はラット椎体皮質骨の配向性と骨強度を正常値から上下させて骨折リスクを高める。正常値からの変動方向は発症要因に依存しており、エストロゲン欠乏では椎体頭尾軸方向への配向性と骨強度が異常に上昇し、カルシウム・リン欠乏では配向性と骨強度が異常に低下する。

 本論文は、材料工学を専門とする著者(工学側:写真左から3番目)にとって、骨関連の学術雑誌に初めて掲載された論文になりました。これもひとえに、中野貴由先生をはじめとする石本卓也先生、宮部さやか先生、工学系の先生方と、共同研究としてご指導いただいた阪大整形外科教室の吉川秀樹先生、橋本淳先生、平尾眞先生のお陰であるものと厚く御礼申し上げます。
 ほとんどの骨疾患において配向性は変化しますが、そのメカニズムの多くは未解明のままです。今後も、「疾患骨に対する微細構造解析」と「細胞・分子レベルからの要因解明」に基づく融合分野研究アプローチを基軸に、最終的な、配向性の自在制御による骨の健全化に向けて、工学の立場から研究活動を行いたく存じます。今後とも、骨代謝関連研究の先生方のご指導・ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます(大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻・小笹 良輔)