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TOP > 1st Author > 山本 景子

Na利尿ペプチド受容体B機能獲得型変異に基づくEpiphyseal Chondrodysplasia Miura Typeの過成長には肥大軟骨細胞におけるCREBのリン酸化が関与している

CREB activation in hypertrophic chondrocytes is involved in the skeletal overgrowth in epiphyseal chondrodysplasia Miura type caused by activating mutations of natriuretic peptide receptor B
著者:Yamamoto K, Kawai M, Yamazaki M, Tachikawa K, Kubota T, Ozono K, Michigami T.
雑誌:Hum Mol Genet. 2019 Apr 1;28(7):1183-1198.
  • 肥大軟骨細胞
  • ナトリウム利尿ペプチド受容体
  • CREB

山本 景子

論文サマリー

 ナトリウム利尿ペプチド受容体B (NPRB、遺伝子名NPR2)はCNPが結合することによりcGMPを産生する受容体型グアニル酸シクラーゼである。これまで、CNPの過剰発現マウスや欠損マウスなどの解析から、CNP/NPRBシグナルが骨格の成長に関与することが示唆されてきた。一方、我々は2012年に、NPRBの機能獲得型変異が著明な骨格過成長を呈する骨系統疾患を引き起こすことを報告し (Miura, et al. PLoS One 2012)、本疾患はEpiphyseal Chondrodysplasia, Miura type (ECDM, OMIM #615923) との病名で疾患単位として確立した。今回、我々がECDMの初報例で同定したNPRB機能獲得型変異体(p.V883M)を軟骨特異的に発現させたマウス(NPRB[p.V883M]-Tg)をモデルとして用いて、ECDMにおける軟骨過成長の細胞分子機序の解明を試みた。

 NPRB[p.V883M]-Tgにおいては出生後の骨格過成長および軟骨におけるcGMP産生増加が認められた。内因性マウスNPRBおよびtransgene由来ヒトNPRB変異体は共に肥大軟骨細胞の形質膜に局在していた。組織学的検討から、変異マウスの軟骨過成長は肥大軟骨層の肥厚化によることが明らかになった。その原因を検討するためBrdUラベリングを行ったところ、変異マウスにおいては肥大化後も増殖を継続している軟骨細胞が存在することが示唆された。アポトーシスについては変異マウスと野生型マウスとで差はなかった。

 NPRB活性化の細胞標的が肥大軟骨細胞であると考えられたことから、次に、ATDC5細胞を用いて分化後期にNPRBにより制御されるシグナルおよび遺伝子を探索した。その結果、成熟ATDC5へのCNP添加によるNPRBの活性化がCREBのリン酸化、およびその標的遺伝子であるcyclin D1の発現を誘導することが判明した。野生型マウス由来初代軟骨細胞においても同様の結果が得られ、細胞透過性cGMPの添加によってもCREBのリン酸化が誘導された。PKA阻害剤は、NPRBの活性化により誘導されるCREBリン酸化に影響を及ぼさなかった。

 そこでマウスの解析に立ち戻り、軟骨成長板の連続切片をリン酸化CREB (p-CREB)、cyclin D1および増殖マーカーであるKi67に対する抗体を用いた免疫染色に供した。変異マウスと野生型マウスのいずれにおいても、p-CREB、cyclin D1、Ki67のシグナルのほとんどは増殖軟骨層に認められたが、変異マウスにおいては肥大軟骨層にも陽性細胞が存在しており、p-CREB、cyclin D1、Ki67のシグナルが同じ細胞に検出された。

 以上の結果から、ECDMにおいては、NPRBの活性化が肥大軟骨細胞でのCREBのリン酸化を誘導し、増殖を継続させることにより、軟骨過成長を引き起こすと考えられた(図)。本研究によりCNP/NPRBによる軟骨伸長の新たな機序が明らかになった。

山本 景子
図1. ECDMにおける軟骨過成長の細胞分子機序。

 私は大阪大学小児科より大阪母子医療センター研究所環境影響部門へ大学院生として派遣して頂きました。実験は初めてでしたので、本当に基本からお教えいただき、一歩ずつ実験を進めていきました。初代軟骨細胞の培養条件や、CNPの添加条件など、一筋縄ではいかない時もありましたが、先生方にアドバイスを頂きコツコツと実験を重ねました。最後に、熱心にご指導いただき、産休に入ったためいろいろお世話をおかけした道上敏美先生、大阪母子医療センター環境影響部門へ派遣して下さりたくさんのアドバイスを下さった大薗先生をはじめ、お世話になった先生方や研究室の皆様に深く感謝いたします。(大阪母子医療センター研究所 環境影響部門・山本 景子)