日本骨代謝学会

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骨芽細胞においてCdk1の欠損は骨形成を障害するが、副甲状腺ホルモン(PTH)による骨同化作用には影響を与えない

Loss of cyclin-dependent kinase 1 impairs bone formation, but does not affect the bone-anabolic effects of parathyroid hormone.
著者:Takahashi A, Mulati M, Saito M, Numata H, Kobayashi Y, Ochi H, Sato S, Kaldis P, Okawa A, Inose H.
雑誌:J Biol Chem. 2018 Dec 14;293(50):19387-19399.
  • 破骨細胞
  • Cdk1
  • 副甲状腺ホルモン

高橋 晃
グループの集合写真

論文サマリー

 骨芽細胞に関しては、Runx2やOsterixといった転写因子を中心とした分化の調節機構について多くの事柄が明らかとなりつつある。一方で、骨芽細胞の増殖機構やその役割についてはほとんどが未知である。細胞増殖はcyclinとcyclin-dependent kinases(以下Cdks)によって厳密に管理されている。しかし、骨代謝におけるCdksの機能や役割についてはまだ解明されていない。本研究の目的は骨形成におけるCdk1の機能と役割を調べることである。

 まず初めに、我々はマウスの頭蓋骨で主要なCdksの発現を検討し、Cdk1の発現が他のCdksと比較して多いことを明らかとした。そして、骨芽細胞においてCdk1を過剰発現することにより増殖が促進され、逆に活性を抑制することにより増殖が抑制されることを見出した。続いて、我々は骨芽細胞特異的Cdk1欠損マウス(以下CKO)を作製し、解析を行った。CKOマウスは骨芽細胞数や骨形成速度など骨形成のパラメータと骨量の低下を示した。一方で、破骨細胞のパラメータについてはコントロール群と有意な差を認めなかった。以上の結果から、Cdk1は骨芽細胞増殖、骨形成、そして骨量維持において重要であることが明らかとなった。

 副甲状腺ホルモン(以下PTH)は骨芽細胞を増加させ、骨量を増加させるとされているが、PTHが骨芽細胞数を増やすメカニズムに関しては未だ明らかではない。そこで我々はPTHの骨同化作用におけるCdk1の役割について検討するために、コントロールマウスとCKOマウスにVehicleとPTHをそれぞれ4週間投与して解析を行った。コントロールマウスでは予想された通り、PTH投与群で骨量と骨芽細胞数の増加を認めた。そして驚くべきことに、CKOマウスでも同様の結果が得られた。増殖マーカーであるKi67を標的とした免疫染色では、コントロールマウスで確認された骨芽細胞の増殖促進作用がCKOマウスでは見られなかった。これらから、PTHは骨芽細胞の増殖促進作用よりも幹細胞から骨芽細胞へのcommitmentに強く作用することが示唆された。最後に、我々は骨折治癒におけるCdk1の機能を調べるために、大腿骨を用いた骨折実験を行った。コントロールマウスでは全例で骨折部の骨癒合が確認できたのに対して、CKOマウスでは全例で遷延癒合を認めた。さらに、CKOマウスの骨折後にPTHを投与することにより、遷延癒合率の改善を認めた。これらから、Cdk1が正常な骨折治癒過程において必須であること、PTHの投与が骨芽細胞の増殖能低下状態においても骨癒合を促進する可能性があることが示唆された。

 高齢化社会を迎えて患者数の増加が予想される加齢性骨粗鬆症においては、骨芽細胞数の減少と共に骨量が減少するとされるが、その病態に基づく治療戦略についてはほとんど研究がなされていない。我々が作製したCKOマウスは加齢性骨粗鬆症の骨代謝動態に近似していることから、加齢性骨粗鬆症のモデルマウスとなり、加齢性骨粗鬆症の治療戦略を立てる上で非常に有用となりうる。本研究の結果からは、骨芽細胞特異的にCdk1の発現や活性を促進することが可能となれば、骨吸収に影響を与えずに骨形成のみを促進する理想的な骨粗鬆症治療につながる可能性が考えられた。

高橋 晃
腰椎切片のVon Kossa染色

高橋 晃
海綿骨(大腿骨)の3D画像

 私は東京医科歯科医科大学整形外科に入局後、臨床医として勤務する中で骨折から変性疾患、骨粗鬆症など多くの整形外科疾患の治療に携わってきました。その中でも骨粗鬆症患者さんを診る機会が年々増えていき、骨代謝領域の研究に従事したいと希望して大学院へと進学致しました。何も分からなかった基礎研究の実験手技や考え方などについては指導医の猪瀬弘之先生や大川淳教授を始め、東京医科歯科大学整形外科学教室のスタッフの皆様に懇切丁寧にご指導頂きました。この場をお借りして改めて感謝申し上げます。本研究が今後さらなる患者数の増加が見込まれる加齢性骨粗鬆症の病態解明、治療戦略の確立に貢献できることを期待しております。(東京医科歯科大学整形外科・高橋 晃)