
特徴的な骨格幹細胞を成長板軟骨の休止細胞層に発見
著者: | Mizuhashi K, Ono W, Matsushita Y, Sakagami N, Takahashi A, Saunders TL, Nagasawa T, Kronenberg HM, Ono N. |
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雑誌: | Nature. 2018 Nov;563(7730):254-258. |
- 骨格幹細胞
- 成長板軟骨
- PTHrP
右奥;小野法明先生 左奥:著者、小野先生のご自宅にて
論文サマリー
長管骨の成長過程では、軟骨細胞および骨芽細胞はたえず増殖と分化を繰り返す。このことより、これらの細胞には前駆細胞が存在することが示唆されるが、その詳細は明らかにされていない。
当研究室では以前にこの前駆細胞を探索するために、軟骨の形成に関与するII型コラーゲン、アグリカン、Sox9の遺伝子のプロモーターを用いた細胞系譜実験を行い、一般的に軟骨細胞と定義される細胞のなかに、未知の骨軟骨前駆細胞が存在することを示した。
そこで今回我々は、役割が未だ明確ではない成長板軟骨の休止細胞層に着目し、骨軟骨前駆細胞の同定を試みた。さらに、これらの細胞の長期間にわたる細胞系譜の解析により、これらの細胞とそのニッチとの相互関係について探求した。
本研究を開始するにあたり、我々は成長板軟骨の休止細胞で生後特異的に活性化するPTHrPプロモーターを見出し、PTHrP-CreERT2マウスを作成し細胞系譜実験を行った。
その結果,生後の成長板軟骨の休止細胞層に骨格幹細胞が存在し長期にわたり成長板軟骨の維持に貢献することが明らかとなった。この骨格幹細胞は増殖軟骨細胞へと分化し,さらに,従来はアポトーシスにより細胞死にいたると考えられていた終末分化細胞である肥大化軟骨細胞へと分化したのち,骨髄まで到達して骨芽細胞および骨髄間質細胞へと分化した。
また、増殖細胞層の軟骨細胞は、休止軟骨細胞のPTHrP陽性細胞から分泌されるPTHrPによるフォワードシグナルと、肥大化軟骨細胞から分泌されるIhhによるリバースシグナルにより協調的に維持されており、これらの細胞が骨格幹細胞の運命を厳密に制御する役割を担っていた。この巧妙なしくみによりこの骨格幹細胞の維持およびその娘細胞の恒久的な供給が保証され、生後の長管骨の成長が維持されると考えられた。
休止細胞層に存在する骨格幹細胞
PTHrP陽性の骨格幹細胞は休止細胞層において維持され,自己複製能をもつ多様な幹細胞から構成される.骨格幹細胞は多分化能をもち,そのニッチとの相互作用により維持される(Mizuhashi K., et al Nature 2018 引用)
2015年2月20日、私は厳冬の米国デトロイト国際空港に降り立ちました。これから始まる米国での研究生活に対する期待と不安がない交ぜとなった気持ちになったことををまるで昨日のように思い出します。あれから日々研究に追われ、3年余の時間が過ぎたとは驚きです......。
本研究は小野法明先生のご指導のもと、研究室の皆様に支えていただきこのような成果を得ることができました。この場を借りて深謝申し上げます。また日本骨代謝学会様にはこのような発表な場をいただき感謝申し上げます。(米国ミシガン大学歯学部小野研究室・水橋 孝治)