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ヒト体節発生In vitroモデルの構築と進行性骨化性線維異形成症の病態解析

Modeling human somite development and fibrodysplasia ossificans progressiva with induced pluripotent stem cells.
著者:Nakajima T, Shibata M, Nishio M, Nagata S, Alev C, Sakurai H, Toguchida J, Ikeya M.
雑誌:Development. 2018 Aug 23;145(16)
  • iPS細胞
  • 体節
  • 進行性骨化性線維異形成症

中島 大輝
ラボメンバーとの写真
左から、寺島芽衣(オフィスアシスタント)、田中麻衣(テクニカルスタッフ)、趙成珠(研究員)、山田尚基(研修員)、池谷真(准教授)、三原千明(M1)、Nicholas James Boyd-Gibbins(研究員)、中島大輝(著者、D3)、中川結紀子(秘書)

論文サマリー

 体節(Somite)は脊椎動物の発生時に一時的に形成させる中胚葉性の分節構造であり、骨格筋、骨・軟骨、真皮、及び腱・靭帯の発生学上の起源である(図1)。

中島 大輝
図1 脊椎動物の体節発生
(作画:京都大学iPS細胞研究所(CiRA)国際広報室 戸谷匡哉様、 著者により改変)

 ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞を出発点とする分化誘導法を構築する際、発生期におけるシグナル環境を再現することは重要なヒントとなる。本研究ではマウスやニワトリの体節発生時のシグナル環境を再現し、ヒトiPS細胞から前体節中胚葉細胞(presomite: PSM)、体節細胞(somite: SM)を誘導し、さらにそこから筋節細胞(myotome: MYO)、硬節細胞(sclerotome: SCL)とともに皮節細胞(dermatome: D)と靭帯節細胞(syndetome: SYN)、および間葉系間質細胞様細胞へと分化可能であることを示した(図2)。

中島 大輝
図2 ヒトiPS細胞を用いたヒト体節発生モデル
ヒトiPS細胞から体節派生細胞を段階的に分化誘導する方法を確立した。

 進行性骨化性線維異形成症 (fibrodysplasia ossificans progressiva、以下FOP)は、筋、腱、靭帯といった線維性結合組織内に骨化巣が出現する非常に稀な遺伝性疾患である。原因遺伝子は、BMPのⅠ型受容体の1つであるACVR1 (別名ALK2)の経配偶子性点突然変異であることがすでにわかっており、アクチビンAがFOP-ACVR1を介して異所性骨形成の最初のステップである軟骨の異常形成に寄与することが、我々の先行研究にて明らかにされている。上述より、我々は体節細胞からそれぞれ硬節細胞、間葉系間質細胞様細胞を介して軟骨細胞を誘導することに成功した。この方法をFOP患者由来iPS細胞(FOP-iPS細胞)に適用し、硬節細胞および間葉系間質細胞様細胞を誘導した後、ACVR1の刺激因子であるアクチビンAを添加した軟骨形成培地で二次元軟骨分化を行った。すると、アクチビンAで刺激されたFOP患者由来の間葉系間質細胞様細胞のみで軟骨誘導が亢進し硬節細胞では違いが認められなかった(図3)。FOP患者では硬節細胞由来の胎児性骨軟骨形成には大きな異常がないとされている。以上のことから、本研究結果はFOP患者で見られる異所性の骨軟骨形成と、硬節細胞由来の正常な胎児性骨軟骨形成を再現していると考えられる。また、異所性骨化の強力な阻害剤であるR667(レチノイン酸受容体γアゴニスト)およびmTORシグナル阻害剤ラパマイシンにより、軟骨形成の亢進が抑えられた。これらの結果より、今回開発した分化誘導法が疾患解析にも有効であることが示された。

中島 大輝
図3 今回の誘導法を用いたFOPのモデル化
A-C: 体節由来間葉系間質細胞を経由して誘導した軟骨細胞
D-F: 体節由来硬節細胞を経由して誘導した軟骨細胞
A, D: リアルタイムqPCR解析
B, E: アルシアンブルー染色
C, F: GAG/DNA解析(グリコサミノグリカンの量を細胞数の指標であるDNA量で割った値)
FOP, FOP患者由来iPS細胞から分化した細胞; resFOP, FOP患者由来iPS細胞のACVR1のFOP変異を相同組換え技術により修復した、遺伝子レスキューFOP-iPS細胞から分化した細胞

 私は約4年半前に京都大学大学院医学研究科に入学して以降、京都大学iPS細胞研究所にて「iPS細胞を用いたヒト体節発生のin vitroモデル化」を目標として研究を開始しました。ニワトリやマウス発生学の知見をヒントに、ヒトiPS細胞の分化運命をコントロールし、ヒト体節発生を培養皿の上で再現した点、そしてこのモデルを進行性骨化性線維異形成症の研究まで応用させた点が本研究の肝となります。今後は今回開発したモデルを用いて、ヒトの体節発生学をin vitroで探求する基礎研究にも従事できればと思っております。また、本研究はヒトiPS細胞由来の腱靭帯細胞作製に関する世界初の報告でもあります。この成果を臨床のステージまでつなげることが我々の大きな課題になりますが、周りの先生方のお力を借りつつ私も微力ながら貢献していきたいと考えております。
 本研究の遂行に多大なご支援を頂きました京都大学iPS細胞研究所 池谷真准教授及び戸口田淳也教授、共同研究者の先生方に厚く御礼申し上げます。また、本研究に用いたiPS細胞樹立のために、ご協力頂きました患者様とそのご家族の皆様方にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。(京都大学iPS細胞研究所京都大学大学院医学研究科・中島 大輝)