日本骨代謝学会

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Runx2は骨芽細胞前駆細胞の増殖に必要であり、Fgfr2とFgfr3の発現制御により増殖を促進する

Runx2 is required for the proliferation of osteoblast progenitors and induces proliferation by regulating Fgfr2 and Fgfr3.
著者:Kawane T, Qin X, Jiang Q, Miyazaki T, Komori H, Yoshida CA, Matsuura-Kawata VKDS, Sakane C, Matsuo Y, Nagai K, Maeno T, Date Y, Nishimura R, Komori T.
雑誌:Sci Rep. 2018 Sep 10;8(1):13551
  • Runx2
  • FGFレセプター
  • 増殖

小守 壽文

論文サマリー

 我々は、以前GFP-Runx2Prrx1プロモーターで過剰発現させたトランスジェニック(tg)マウスは、四肢の形成異常をきたすことを見出した。この原因を探るために、GFP-Runx2 tgマウスとPrrx1-GFP tgマウスの肢芽形成領域の細胞をGFPでソーティングし比較するとFgfr1, Fgfr2, Fgfr3の発現がRunx2 tgマウスで上昇していた。FGFシグナルは、四肢形成に重要な役割を果たす。すなわち、間葉に発現したFgf10は、外胚葉性頂堤(AER)のFgfr2bに結合し、Fgf4とFgf8を誘導する。Fgf4とFgf8は、間葉に発現するFgf1cとFgfr2cに結合し、間葉細胞を増殖させる。Runx2過剰発現は、Fgfレセプターの発現異常を引き起こし四肢形成異常に至ったと考えられた。強制発現、ノックダウン、レポーターアッセイ、ChIPアッセイにより、Runx2がFgfr1, Fgfr2, Fgfr3を直接発現制御していることを明らかにした。

 これまで、骨芽細胞の分化メカニズムは詳細に調べられてきたが、骨芽細胞を供給する骨芽細胞前駆細胞の増殖に関しての知見は少ない。Runx2 ノックアウト(ko)マウスでは、頭蓋冠領域は硬膜のみで、骨芽細胞の前駆細胞となる間葉系細胞は存在しなかった(図1)。Runx2 koマウスの四肢は軟骨から形成されているが、その周囲にも間葉系細胞は極めて少なかった(図2)。一方、Sp7 koマウスでは、これらの領域にRunx2を発現する豊富な間葉系細胞が存在した(図1、2)。これらの細胞は、I型コラーゲンを弱く発現し活発に増殖しており、前骨芽細胞と考えられた。これらの前骨芽細胞は、Sp7–/–Runx2+/–マウスでは半減していた(図3)。これらの結果は、Runx2が前骨芽細胞の増殖に重要な役割を果たしていることを示唆している。

小守 壽文
図1 胎生18.5日の頭部の組織切片
Sp7–/–マウスでは、頭蓋冠にBrdU陽性細胞を含む豊富な間葉系細胞が存在する(B, E, H)。一方、Runx2–/–マウスでは、頭蓋冠に間葉系細胞はほとんど存在しない(C, F, I)。

小守 壽文
図2 胎生18.5日の下肢の組織切片
Sp7–/–マウスでは、軟骨周囲にI型コラーゲン陽性の豊富な間葉系細胞が存在し、一部の細胞はII型コラーゲンを発現する軟骨細胞へと分化している(B, E, H, K, N, Q)。Runx2–/–マウスでは、軟骨周囲にほとんど間葉系細胞が存在しない(C, F, I, L, O, R)。

小守 壽文
図3 胎生18.5日の骨格標本と下肢の組織切片
Sp7–/–Runx2+/+マウスでは、軟骨周囲の間葉系細胞の増殖により脛骨、腓骨が湾曲している(A, C, E)。Sp7–/–Runx2+/–マウスでは、軟骨周囲の間葉系細胞は少なく、脛骨、腓骨の湾曲は見られない(B, D, F)。

 そこで、骨芽細胞前駆細胞の増殖におけるRunx2の機能を検討した。Runx2は骨芽細胞前駆細胞の増殖およびFGF2による増殖を促進し、これらは、Runx2のsiRNAによって抑制された。またRunx2による増殖促進はFgfr阻害剤によって阻害された。Fgfr1-3のうち、Fgfr2とFgfr3が増殖に関与し、MAPK経路が活性化されていた。また、Fgfr2Fgfr3は野生型マウスとSp7 koマウスの頭蓋冠で同程度発現していたが、Runx2 koマウスでは著減しており、Runx2発現がFgfr2Fgfr3の発現に必要と考えられる。したがって、FGFシグナルが骨芽細胞前駆細胞の増殖に主要な役割を果たし、Runx2は、Fgfr2Fgfr3の発現を制御し、骨芽細胞前駆細胞の増殖を促進させる重要な転写因子と考えられた。

 これまで、in vitro実験によりRunx2は骨芽細胞系列の増殖を抑制すると考えられてきた。一般的に、分化を誘導すると増殖は抑制されるので、これは受け入れやすい考えである。一方、本論文は、Runx2は骨芽細胞分化を誘導するだけでなく、骨芽細胞前駆細胞の増殖を促進させる重要な転写因子であることを示した。これまでの報告を否定した本論文はなかなか受け入れられなかった。実際in vitroでは、Runx2 koマウスの頭蓋冠細胞は野生型マウス由来の頭蓋冠細胞より増殖が良い。しかし、Runx2 koマウスの頭蓋冠細胞は、in vitroとin vivoで遺伝子発現がかなり異なっていた。Runx2–/–マウス、Sp7–/–マウスSp7–/–Runx2+/–マウスの表現型は、明らかにRunx2が増殖に必要な因子であることを示しており、表現型解析の重要性を示すことができた。(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科細胞生物学分野・小守 壽文)