マウス雌骨芽細胞で優位に発現するSerpina3nは分化した骨芽細胞の表現型を抑制する
著者: | Ishida M, Kawao N, Okada K, Tatsumi K, Sakai K, Nishio K, Kaji H. |
---|---|
雑誌: | Endocrinology. 2018 Nov 1;159(11):3775-3790. |
- 骨芽細胞
- 性差
- 石灰化
論文サマリー
骨粗鬆症には性差が存在することはよく知られており、その原因として、骨代謝におけるエストロゲンとアンドロゲンの作用の差が関与すると考えられてきました。しかし、閉経後骨粗鬆症での女性ホルモン補充療法の治療効果は、ビスホスホネートと比較すると限定的であることや、ステロイドや糖尿病に関連した骨粗鬆症の重症度にも性差が報告されており、骨粗鬆症における性差は、性ホルモンのみで説明することは困難であることから、細胞レベルで雌雄差が存在する可能性に着目し、雌雄由来骨芽細胞のDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行って、骨芽細胞における性差を規定する遺伝子探索を行うことにしました。
まず雌雄マウス由来の骨芽細胞を比較したところ、雄では雌よりも有意にOsterix、ALPなどのmRNA発現及びALP活性、石灰化能が高く、このような性差を説明する遺伝子を探索するために、雌雄由来骨芽細胞の網羅的遺伝子発現解析を行なったところ、雄と比較して、雌で最も発現が増加した遺伝子として、Serpina3nを同定しました。Serpina3nは、これまで機能未知なセリンプロテアーゼインヒビターであることから、マウス間葉系ST2細胞にBMP-2を添加し骨芽細胞に分化させたところ、分化とともにSerpina3nの発現が減少し、Serpina3n強制過剰発現は、ST2細胞の骨芽細胞分化を有意に阻害することが分かりました。さらに、マウス初代培養骨芽細胞で、siRNAにより内因性Serpina3n発現の低下は、Runx2, Osterix, I型コラーゲンの発現を有意に増加させ、マウス骨芽細胞株MC3T3-E1細胞にSerpina3nを安定過剰発現させたところ、骨芽細胞分化関連遺伝子の発現を抑制し、石灰化関連因子(ENPP1, ANK, DMP-1、SOST)の発現も抑制しました。一方、マウス単球様Raw264.7細胞からのRANKLによる破骨細胞形成にSerpina3n安定過剰発現は影響を及ぼさなかったことから破骨細胞形成系にはSerpina3nの発現は関与しないことが示唆されました。
今回の実験により、図に示すように骨芽細胞の性差に関連する因子として、初めてSerpina3nを見出し、Serpina3nは雌骨芽細胞で強く発現し、骨芽細胞分化・石灰化を抑制することにより、雄よりも雌で骨芽細胞機能が低いことに関連する因子である可能性が示唆されました。
これまでの研究生活の中で骨代謝だけでなく多くの生命現象に性差が少なからずあることに興味を抱き、骨代謝における性差研究を開始しました。骨代謝の分野の研究は初めてのことで思うように結果が出せないことも多くありましたが、無事に論文化できたことをうれしく思っています。マウスの新生児から骨芽細胞を単離培養するので3週間に一度、出産するマウスに合わせて実験を組んでいました。メンデルの法則に従って雌雄が1:1にならないこともあり、思うように産んでくれないこともあって大変でした。
今後は閉経後骨粗鬆症モデルマウスや遺伝子改変マウスを使うなどin vivoでの検討とヒトでSerpina3nの発現と同等の機能解析が確認されるとSerpin3nの機能を阻害するような薬剤が開発されれば骨粗鬆症の治療に応用できるかもしれないと考えています(近畿大学医学部再生機能医学教室・石田 昌義)