日本骨代謝学会

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RANKL逆シグナルによる骨吸収と骨形成のカップリング

Coupling of bone resorption and formation by RANKL reverse signalling.
著者:Yuki Ikebuchi, Shigeki Aoki, Masashi Honma, Madoka Hayashi, Yasutaka Sugamori, Masud Khan, Yoshiaki Kariya, Genki Kato, Yasuhiko Tabata, Josef M. Penninger, Nobuyuki Udagawa, Kazuhiro Aoki & Hiroshi Suzuki
雑誌:Nature. 561(7722):195-200, 2018 doi: 10.1038/s41586-018-0482-7.
  • RANKL
  • カップリング
  • 細胞外膜小胞

池淵 祐樹

論文サマリー

 骨リモデリングにおいて、破骨前駆細胞へのRANKLの提示は骨細胞が主要な供給源であることが近年の研究から示唆される一方で、骨芽細胞におけるRANKLの生理的役割は不明瞭となっていた。RANKLが属するTNFスーパーファミリーでは、細胞内へと逆シグナルを発生させる双方向性シグナル分子として機能する例が複数知られており、また、RANKL結合性の合成ペプチドが骨芽細胞の分化促進作用を示すという報告があることから、骨芽細胞に発現するRANKLがシグナル受容分子として機能する可能性が想定された。

 マウス破骨前駆細胞様RAW264.7細胞の成熟過程の分泌物を分析した結果、成熟破骨細胞からRANKを搭載した膜小胞(mOC-SEVs)が分泌されていた。このmOC-SEVsはマウス骨芽細胞分化を促進し、また、マウス頭蓋骨での骨修復評価系においても骨形成を促進する作用が認められた。膜小胞上のRANKを事前にRANKLで被覆した場合、あるいはRANKL遺伝子欠損マウスより単離した骨芽細胞では促進作用が消失したため、骨芽細胞上のRANKLが骨形成シグナルを受容していることが示唆された。このRANKL逆シグナルの入力は、PI3K-Akt-mTORC1経路を活性化し、最終的に骨芽細胞の初期分化におけるマスター転写因子Runx2の活性化に繋がることを見出した。

 一連のシグナル経路が生体内では骨吸収から骨形成へのカップリングを媒介する可能性を想定し、次いで、mOC-SEVsの機能を抑制する検討を行った。中性スフィンゴミエリナーゼに対する阻害剤GW4869によって膜小胞の分泌を抑制した場合、また、mOC-SEVsに含まれる膜タンパク質IGSF8に対する中和抗体を用いて立体障害的にRANK-RANKLの相互作用を阻害すると、いずれの場合も、カップリングによる骨形成の上昇を有意に抑制することが明らかとなった。さらに、RANKL細胞内ドメインに特定の点変異(Pro29Ala)を導入することで逆シグナルの活性化が抑制され、新たに作出したこの変異マウスでは骨吸収と骨形成のカップリングが抑制されており、骨芽細胞のRANKLは、小胞型RANKを認識するカップリング受容因子として働くことが示唆された。

 最後に、細胞膜表面のRANKLの集積が逆シグナルを発生させる性質に着目し、RANKLの細胞外ドメインに結合して逆シグナルを活性化できる改変抗体を創製した。卵巣摘出術を施したマウスに投与した結果、破骨前駆細胞へのRANKL刺激のみを遮断可能な改変抗体では、破骨細胞の成熟阻害に伴って骨芽細胞による骨形成も低下する様子が観察された。一方で、RANKL逆シグナルの活性化を促す改変抗体を投与した場合には、骨吸収を同程度に抑制する活性に加えて、骨形成の抑制を阻止する活性も認められ、新たな薬理標的として機能することが見出された。

池淵 祐樹
図1 骨芽細胞に発現するRANKLは成熟破骨細胞由来の膜小胞型RANKを認識し、RANKL逆シグナルを活性化することで、骨吸収と骨形成のカップリングを媒介する

 私が骨代謝研究に関わり始めたのは博士課程を終えてからで、現在も所属する東大病院・薬剤部では、当時は骨芽細胞におけるRANKLの局在制御機構の解析が行われていました。骨芽細胞でのRANKLの発現が非常に緻密にコントロールされていたため、破骨細胞分化制御とは別の、何かしらの意味があるだろうと検討を重ねたことから糸口が掴めました。一つ一つの実験の積み重ねからシステムの全体像を推定し、これを証明するという、研究の組み立て方や展開のダイナミックさを肌で感じられたことはこれからも大きな財産になると感じています。
 臨床に近い環境にいることもあり、問題となる疾患に対してより効果的な治療法の提案に繋がる研究を目指して、これからも一歩ずつ前に進めればと思います。(東京大学医学部附属病院 薬剤部・池淵 祐樹)