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疾患特異的iPS細胞を用いた成長板軟骨異種移植モデルの構築

Proposal of patient-specific growth plate cartilage xenograft model for FGFR3 chondrodysplasia
著者:Kimura T, Ozaki T, Fujita K, Yamashita A, Morioka M, Ozono K, Tsumaki N
雑誌:Osteoarthritis Cartilage. 2018 Nov;26(11):1551-1561.
  • iPS細胞
  • 内軟骨性骨化
  • 異種移植モデル

木村 武司

論文サマリー

 成長板軟骨は軟骨細胞の増殖・肥大化によって長管骨を長軸方向へ伸長させ、思春期に骨端線が閉鎖するまでヒトの成長を司る臓器である。小児期に低身長や成長障害を呈する骨系統疾患では成長板軟骨の機能不全が起こっているとされているが、実際に小児の軟骨組織を得ることは極めて困難であり、ヒトの病態を解析する適切な実験モデルが無いことが長年の課題であった。軟骨細胞を免疫不全マウスに移植すると内軟骨性骨化が起こることは既に報告されており、iPS細胞由来軟骨でも移植後1年で摘出した組織において内軟骨性骨化が観察されている。そこで我々は軟骨分化誘導系に異種移植を組み合わせることで軟骨細胞を更に分化・成熟させ、成長板軟骨における増殖肥大化を観察するモデルを構築し、疾患の病態再現と創薬を目指して研究を行った。

 初めに健常人由来のiPS細胞から作成した軟骨組織をC.B-17/Icr-scid/scidJclマウス(8週齢雄)の背部皮下に移植し、X線撮影を行って骨化を経時的に観察した。その結果、凡そ3ヶ月で骨化が起こり、摘出した組織片の組織学的解析では成長板軟骨に類似した層状構造を呈していた。増殖・肥大化層に特異的なマーカーが発現しており、機能的にも成長板軟骨と同等であると考えられた(図1)。ヒト由来の細胞を特異的に染色すると、骨芽細胞や骨細胞にもヒト起源の細胞が確認され、軟骨細胞が分化転換して骨形成に関わっている可能性が示唆された。また4週齢の幼若マウスに移植しμCTで骨形成を評価したところ、成体よりも早い4~6週で骨化が起こることが明らかになった。

木村 武司
図1 ヒトiPS細胞由来成長板軟骨の組織学的解析
健常人由来iPS細胞株(409B2)より作成した軟骨組織を8週齢SCIDマウスの皮下に移植し、3か月後に摘出した組織の肉眼像(左上)。組織所見では軟骨基質(サフラニンO、COL2)、増殖層(Ki67)、前肥大層~肥大層(ihh)、肥大層(COL10)について各々染色を行い、成長板様の層状構造を形成していることが示された。

 次にFGFR3異常症3疾患(タナトフォリック骨異形成症、軟骨無形成症、軟骨低形成症)の患児より作成した疾患特異的iPS細胞を用いて解析を行った。疾患の重症度に応じた肥大軟骨細胞の小型化と配列の乱れを認め、疾患の病態が再現されていると考えられた。これに対してFGFR阻害剤投与(BGJ3982mg/kg皮下注射)を行ったところ、rescue群として作成したFGFR3ノックダウン株(TD1-shFGFR3)と同等の肥大軟骨細胞径の拡大が見られた(図2)。

木村 武司
図2 FGFR3異常症由来疾患特異的iPS細胞を用いた病態再現と薬剤効果の評価
タナトフォリック骨異形成症由来iPS細胞(TD1-714)とFGFR3ノックダウン株(TD1-shFGFR3)より作成した軟骨 組織を4週齢SCIDマウス皮下に移植し、BGJ398 2mg/kg或いはvehicleを4週間皮下注射し摘出した組織のサフラニンO染色所見(左)。MMP13陽性肥大軟骨細胞径の測定結果(右)。★★p<0.01。

 本研究ではiPS細胞を用いることでの利点、[1]細胞リソースとして容易かつ大量に利用できること、[2]疾患モデル・創薬研究への応用が期待できること、を生かした新たな内軟骨性骨化モデルを構築した。今後ヒトの骨発生や骨系統疾患研究への応用が期待できる。

著者コメント

 私は大阪大学小児科より京都大学iPS細胞研究所(CiRA)に特別研究学生として派遣され、4年間の大学院博士課程のほとんどを妻木研究室で過ごしました。小児科医として成長に関わる仕事をしたいと考え、当初からヒトiPS細胞由来の軟骨細胞を肥大化させる方法について模索していましたがin vitroでは中々上手く行かず、試行錯誤の上でたどり着いたのがこのモデルでした。今回の検討では既知の疾患、薬剤を用いて解析を行いモデルとしての有用性を示しましたが、今後は他疾患への応用や新規治療法の開発、骨化メカニズムの解明に取り組みたいと思います。最後に、これまで熱心にご指導いただいた妻木範行先生、リバイスの実験を快く引き受けて下さった尾崎友則先生、いつも助けていただいた妻木研メンバー、そしてCiRAで学ぶチャンスを与えていただき本研究についても多くの助言をいただいた阪大小児科の大薗恵一先生と医局員の方々に、この場を借りて心より御礼申し上げます。(大阪大学大学院医学系研究科 小児科学・木村 武司)