日本骨代謝学会

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抗フラクタルカイン抗体の破骨前駆細胞の滑膜浸潤抑制による関節破壊抑制効果

Anti-Fractalkine Antibody Suppresses Joint Destruction by Inhibiting Migration of Osteoclast Precursors to the Synovium in Experimental Arthritis.
著者:Hoshino-Negishi K, Ohkuro M, Nakatani T, Kuboi Y, Nishimura M, Ida Y, Kakuta J, Hamaguchi A, Kumai M, Kamisako T, Sugiyama F, Ikeda W, Ishii N, Yasuda N, Imai T.
雑誌:Arthritis Rheumatol. 2018 Aug 6. doi: 10.1002/art.40688.
  • フラクタルカイン
  • CX3CR1
  • 破骨前駆細胞

根岸 香菜

論文サマリー

 Fractalkine (FKN)/CX3CL1は、活性化した血管内皮細胞で誘導される細胞膜結合型ケモカインであり、細胞接着分子と細胞遊走因子の2つの機能を併せ持つ。一方、FKNの受容体であるCX3CR1は、パトローリング単球やキラーリンパ球などの特徴的な機能を担う免疫細胞に選択的に発現している。FKN-CX3CR1系路は、炎症カスケードの起点形成と組織傷害増悪において重要な役割を果たしている。関節リウマチ(RA)は、滑膜炎や骨軟骨破壊を主体とする自己免疫疾患であり、活性化内皮細胞および線維芽細胞でのFKNの発現上昇と、CX3CR1陽性のマクロファージやT細胞の関節組織への浸潤が認められている。

 本研究では、マウスコラーゲン誘発関節炎(CIA)モデルの病態形成におけるFKN-CX3CR1経路の役割、特に関節破壊の作用機序解明に重点をおいて検討を行った。

 抗FKN抗体投与により、関節炎スコアの減少、組織学的な滑膜炎と骨・軟骨破壊の抑制、および破骨細胞数の顕著な減少が認められた。そこで、抗FKN抗体の骨破壊抑制効果の作用機序を詳細に検討した。骨髄由来のCX3CR1陽性CD115陽性細胞を蛍光標識し、CIA発症マウスに移入したところ、これら細胞の速やかな関節骨周囲の肥厚滑膜への浸潤および破骨細胞への分化が認められた。抗FKN抗体を移入前に投与すると、CX3CR1陽性CD115陽性破骨前駆細胞の浸潤が顕著に抑制され、分化した破骨細胞数も有意に減少した。さらに、CX3CR1ノックアウトマウス由来の破骨前駆細胞をCIAマウスに移入した結果、野生型マウス由来の破骨前駆細胞と比較して、滑膜組織への浸潤が顕著に低下した。これらの結果から、抗FKN抗体は、CIAマウスにおける破骨前駆細胞の滑膜組織への浸潤を阻害し、関節破壊を抑制することが示唆された。

 RA患者さんを対象とした臨床第1/2相試験において、ヒト化抗ヒトFKNモノクローナル抗体(E6011)の臨床的有効性が示唆されている(NCT02196558)。関節局所における炎症と関節破壊を増悪する作用を併せ持つFKN-CX3CR1経路の阻害は、RAに対する新たな治療戦略となることが期待される。

根岸 香菜

根岸 香菜

著者コメント

 破骨前駆細胞移入試験では、培養・分離条件などに苦労しましたが、抗FKN抗体が破骨前駆細胞の浸潤を顕著に抑制するデータを見たときは、RAにおいてFKN-CX3CR1系路を遮断することの重要性を強く感じました。世界で最初のヒト化抗ヒトFKNモノクローナル抗体(E6011)の創薬や患者さんの治療のために、サイエンスを通じて貢献できることに喜びを感じています。骨代謝研究を進めるにあたり、ご指導頂きました慶應義塾大学共同利用研究室の松尾光一教授、黒田有希子助教に感謝申し上げます。また、本研究にご助力頂いた株式会社カン研究所、エーザイ株式会社、EAファーマ株式会社の皆様に深く御礼申し上げます。(株式会社カン研究所次世代標的研究部・根岸 香菜)