日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 稲木 涼子

ペリオスチンはコラーゲン分子の高次構造形成を促し、再生軟骨組織の成熟・維持に貢献する

Periostin contributes to the maturation and shape retention of tissue-engineered cartilage.
著者:Inaki R, Fujihara Y, Kudo A, Misawa M, Hikita A, Takato T, Hoshi K.
雑誌:Sci Rep. 2018 Jul 25;8(1):11210.
  • 再生軟骨
  • コラーゲン
  • ペリオスチン

論文サマリー

 本研究は、再生軟骨を取りまく線維組織におけるペリオスチンの機能解明ならびに再生医療での活用を目的として、遺伝子欠損マウスを用いた解析とペリオスチン含有再生軟骨の検討を行い、下記の結果を得た。

1.移植後の再生軟骨組織におけるペリオスチンの経時的な変化を確認したところ、移植後初期では再生軟骨を囲む外周線維組織、後期では再生軟骨領域間の介在線維組織において、ペリオスチンがⅠ型コラーゲンと共局在することが確認された。

2.野生型(Pn+/+)および遺伝子欠損(Pn-/-)マウスを用いて、ペリオスチン欠損が再生軟骨移植に及ぼす影響を評価したところ、Pn+/+由来再生軟骨では介在線維組織にペリオスチンが発現し、豊富な軟骨基質を再生したが、Pn-/-由来では介在線維組織にペリオスチンを欠き、軟骨再生は乏しかった。一方、再生軟骨をPn+/+およびPn-/-マウスに移植すると、Pn+/+移植では外周線維組織にペリオスチンが発現し再生軟骨の3次元形状は維持されたが、Pn-/-移植では外周にペリオスチンを欠き、再生組織の形態維持は困難となり、外部へ広がる不整形を呈した。

3.共局在するコラーゲンとペリオスチンの相互作用を評価するべく、in vivoでは Pn+/+およびPn-/-マウスの線維性組織の比較、in vitroではペリオスチン添加に伴うコラーゲンの変化を評価した。in vivoでは、Pn-/-マウスにおいてペリオスチン欠損に伴う線維組織の脆弱化が観察されたが、外周線維へのペリオスチン添加により再生組織の形状不整に改善が認められた。実際in vitroで、ペリオスチン添加によりコラーゲンゲルの力学強度は向上し、電子顕微鏡像からはコラーゲン分子の会合促進と線維性の高次構造変化が確認された。

4.軟骨細胞に対するペリオスチンの作用を検討したところ、ペリオスチン含有培養液下では、軟骨細胞の増殖や分化に影響はなかった。一方、ペリオスチン含有コラーゲンを用いて軟骨細胞を3次元培養したところ、分化の促進が観察された。さらに、このペリオスチン含有コラーゲン上で培養した軟骨細胞では、AKTシグナルを介した細胞外基質シグナルが活性化していることが確認された。そのため、軟骨細胞に対するペリオスチンの生物活性は、ペリオスチンによるコラーゲンの高次構造化を介するものと示唆された。

稲木 涼子

著者コメント

 本論文ではぺリオスチンがコラーゲンへ作用しコラーゲン分子の高次構造化を促進することが示されました。この変化により再生軟骨周囲では、その形態保持に不可欠な外周線維組織が十分な強度を持って構築され、また組織内部においては再生軟骨の成熟が促進されることが明らかとなりました。我々が診療を担当する顎・顔面領域は、複雑な解剖学構造を有することから、移植後の再生組織の厳密な形状維持は極めて重要です。今後このぺリオスチンの再生軟骨組織への導入を検討し、さらなる軟骨再生医療の発展に貢献してゆきたいと考えております。
 ご指導頂きました星教授、疋田准教授をはじめ、ご協力頂いた共同研究者の先生方、研究室の全ての先生方に心より感謝を申し上げます。(東京大学医学部附属病院 ティッシュ・エンジニアリング部・稲木 涼子)