日本骨代謝学会

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モノカルボントランスポーター1はp53を抑制し骨芽細胞分化を正に制御する

Monocarboxylate transporter-1 promotes osteoblast differentiation via suppression of p53, a negative regulator of osteoblast differentiation.
著者:Sasa K, Yoshimura K, Yamada A, Suzuki D, Miyamoto Y, Imai H, Nagayama K, Maki K, Yamamoto M, Kamijo R.
雑誌:Sci Rep. 2018 Jul 12;8(1):10579.
  • MCT1
  • p53
  • 骨芽細胞分化

笹 清人
左から上條先生、吉村先生、筆者

論文サマリー

 モノカルボントランスポーター1(MCT1)は全身に分布し、乳酸やピルビン酸、ケトン体等のモノカルボン酸をプロトン(H+)依存的に細胞内外へ輸送する膜タンパク質である。我々はこれまでに、マウス軟骨細胞をIL-1βで刺激し炎症性細胞死を誘導する系において、MCT1がNADPH oxidase-2(Nox2)の発現誘導に必要であることを報告した。これは、MCT1を介した乳酸などの輸送が遺伝子発現を制御するということを示唆しており、担体であるMCT1が物質輸送を介したエネルギー代謝調節とは別の機能を持つことを意味する。しかしながら、その他の骨構成細胞におけるMCT1の機能についての報告はほとんどなくその役割は不明であった。そこで今回、我々は骨芽細胞分化におけるMCT1の機能を解明することを目的に研究を行った。

 マウス筋芽細胞株C2C12細胞をリコンビナントヒトBMP2で刺激し骨芽細胞分化を誘導した。Mct1遺伝子の抑制が骨芽細胞分化に及ぼす影響を検討するため、分化誘導を開始する24時間前にMct1 siRNAを細胞に導入して遺伝子発現をノックダウンした。C2C12細胞はBMP2刺激後約96時間でアルカリホスファターゼ(ALP)陽性の骨芽細胞様細胞に分化するが、Mct1 siRNAを導入した群ではALP陽性細胞数が著しく減少した。次に骨芽細胞分化マーカー遺伝子の発現をrealtime PCRで解析した結果、Mct1 siRNAを導入した群ではRunx2, Sp7, TnapのmRNA発現が有意に抑制された。Mct1遺伝子の抑制がこれらの骨芽細胞分化マーカー遺伝子を抑制したという結果は、MCT1が骨芽細胞分化を正に制御する因子であることを示唆する。次にMCT1を介した骨芽細胞分化制御機序を解明するため、BMPシグナルの主要な経路であるSmad1/5/8およびMAPK(ERK1/2、p38、JNK)経路の活性化をウエスタンブロット法で検討したが、Mct1 siRNAの導入による変化は認められなかった。種々の骨芽細胞分化制御因子について検討した結果、骨芽細胞分化抑制因子として知られるp53およびKlf4のmRNA発現がMct1 siRNAによって増加することを見出した。Mct1 siRNAとp53もしくはKlf4 siRNAのCo-transfectionによる骨芽細胞分化の回復実験を試みた結果、Mct1 siRNAによる骨芽細胞分化の抑制はp53の発現誘導およびp53の活性化を介することが明らかになった。すなわちMCT1はp53を抑制することで骨芽細胞分化を正に制御する機能を持つと考えられる。

笹 清人

著者コメント

 我々はモノカルボン酸の輸送担体が骨芽細胞分化を制御しているというMCT1の新たな機能を見出しました。MCT1が骨代謝疾患の治療標的の一つになり、多くの患者さんの治療に役立つことを願っております。
 本論文は、私の研究人生の第一歩として出させていただいたもので、Mct1遺伝子の抑制が骨芽細胞分化を抑制するメカニズムの探索にとても苦労し、時間を要しました。上條竜太郎教授、宮本洋一准教授、山田篤講師、鈴木大講師、吉村健太郎助教をはじめ様々な先生方のご指導、ご鞭撻により本研究を遂行することができました。この場をお借りして、心より御礼申し上げます。(昭和大学歯学部口腔生化学講座・笹 清人)