日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 木田 淳平

Wnt3aの骨芽細胞分化誘導能にはLEF1とTAZの相互作用が必要である

Interaction of LEF1 with TAZ is necessary for the osteoblastogenic activity of Wnt3a.
著者:Kida J, Hata K, Nakamura E, Yagi H, Takahata Y, Murakami T, Maeda Y, Nishimura R.
雑誌:Sci Rep. 2018 Jul 10;8(1):10375.
  • 古典的Wnt
  • 骨芽細胞分化
  • TAZ

木田 淳平

論文サマリー

 古典的Wntシグナルが骨形成や骨芽細胞分化を促進することが示されてから久しい。また古典的Wntは軟骨や関節の恒常性あるいは疾患にも重要な役割を果たしている。さらに古典的Wntシグナルのアンタゴニストであるスクレロスチンに対するヒト型モノクローナル抗体が骨粗鬆症患者の治療に有効であり、その上市も待ち望まれている。古典的Wntの作用機序としては、βカテニン/LEF1シグナルが中心的役割を担っていることが明らかにされている。近年、Hippoシグナル分子であるTAZが、古典的Wntシグナル分子として機能することが報告され、骨芽細胞分化を促進する新たなメカニズムとして報告された。一方で、非古典的WntのメディエーターとしてのTAZの重要性が提唱され、WntシグナルにおけるTAZの作用メカニズムが混沌としかけていた。このような背景で、本研究を開始した。

 表的な古典的WntであるWnt3aを用いて、古典的Wntシグナルに対するTAZの関与を検討するためにreal-time qPCR、ウエスタンブロット及びレポーターアッセイを実施した。その結果、Wnt3aはTAZのmRNAレベルの発現にあまり影響しないにも関わらずタンパク質の発現を安定化させ、TAZの転写活性機能を促進することが確認できた。一方で、非古典的Wntシグナルにはそのような作用は認めなかった。次に、アデノウイルスを用いたLEF1とTAZの過剰発現実験より、TAZが骨芽細胞分化活性を示す一方で、LEF1はほとんど効果を示さなかった。しかし、dominant-negative LEF1とdominant-negative TAZを用いてLEF1あるいはTAZの機能を阻害させると、Wnt3aの骨芽細胞分化促進効果が著明に抑制された。以上より、LEF1とTAZがWnt3aの骨芽細胞分化促進作用に必要であることが示された。次にレポーターアッセイと免疫共沈降法によりその相互関係について検討したところ、LEF1とTAZが機能的にも物理的にも相互作用を有することが示された。real-time qPCRにより骨芽細胞分化マーカーを指標に検索を行った結果、Wnt3aと BMP2の協調作用が認められた。TAZとRunx2が相互作用することが報告されているので、BMP2とWnt3aのクロストークにおけるLEF1、TAZ、そしてBMP2の下流で機能するRunx2との相互関係をレポーターアッセイならびに免疫共沈降法にて検索すると、LEF1、TAZおよびRunx2が物理的に結合して複合体を形成し、転写機能において相互作用を発揮することが分かった。またdominant-negative LEF1とdominant-negative TAZの過剰発現実験により、Runx2の骨芽細胞分化誘導機能にはLEF1とTAZが関与していることが示唆された。以上のことからWnt3aとBMP2は、LEF1、TAZおよびRunx2の複合体形成を促し、骨芽細胞分化を制御していることが示された。また関節あるいは軟骨における古典的Wntの作用にもLEF1、TAZおよびRunx2の相互連携が関与している可能性が推察された。

著者コメント

 Wntシグナルの骨芽細胞分化における古典的Wntの役割に関しては、実は不明確な点が多く、その分子メカニズムを詳しく理解するために本研究を開始しました。研究の当初は、なかなか結果が出ず不安なことも少なくありませんでした。しかし、HippoシグナルのメディエーターであるTAZに着目し、古典的Wntシグナルとの関わりについて検討したところ、予想していなかった、興味深い結果が得られ、今回の研究成果を得ることができました。論文の査読の際には、reviewerから古典的Wntの全貌はわかっていると否定的なコメントを受けて、論文が受理されるまではずいぶん心配しましたが、本研究の新規性を信じて研究を続けました。最後になりましたが、貴重な研究の機会を与えて頂き、また研究を御指導・御協力頂きました西村理行教授、波多賢二准教授、並びに大阪大学歯学部生化学教室の皆様方に心より感謝申し上げます。特に、論文の追加実験にあたっては、勤務先から研究室に戻って実験する負担を、全面的にサポートしていただいた波多准教授には衷心より感謝しています。(大阪大学大学院歯学研究科生化学教室・木田 淳平)