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造血幹細胞ニッチで特異的に高発現する転写因子Ebf3は骨髄腔の維持に必須である

Stem cell niche-specific Ebf3 maintains the bone marrow cavity.
著者:Seike M, Omatsu Y, Watanabe H, Kondoh G, Nagasawa T.
雑誌:Genes Dev. 2018 Mar 1;32(5-6):359-372.
  • 骨髄
  • 造血幹細胞ニッチ
  • 間葉系幹細胞

清家 正成

論文サマリー

 造血幹細胞は骨髄のニッチと呼ばれる特別な微小環境により維持されている。造血幹細胞の維持に必須のケモカインCXCL12とサイトカインSCFを骨髄内で高発現する細網細胞(CAR細胞)は、造血幹細胞ニッチの主要な構成細胞であり、骨芽細胞と脂肪細胞に分化できることが示されている。しかしながら、CAR細胞が骨髄の間葉系幹細胞であるか否かは不明であった。また、大部分のCAR細胞では、造血の場である骨髄腔や造血幹細胞ニッチを維持するために、骨芽細胞への分化が抑制されているが、その制御機構は不明であった。

 我々は、Ebfファミリーに属する転写因子Ebf3が骨髄内でCAR細胞で特異的に高発現することを見出し、Ebf3発現細胞(CAR細胞)は細胞系譜解析より1年以上自己複製し成体骨髄の大部分の骨芽細胞と脂肪細胞を供給する間葉系幹細胞であることを証明した。

 次に、CAR細胞でEbf3を欠損させたマウスを解析したところ、26週齢では骨髄で海綿骨が軽度に増加し骨髄造血が軽度に低下していた。一方、老齢(90週齢)のEbf3欠損マウスでは骨髄で海綿骨が著増していた(図1)。また、CAR細胞でのOsterixの発現とアルカリホスファターゼ(ALP)活性が著増していたことから、Ebf3はCAR細胞の骨芽細胞への分化を抑制し、骨髄腔の維持に必須であることが明らかになった。また、骨髄造血とCAR細胞でのCXCL12とSCFの発現が著減していたことから、Ebf3は造血幹細胞ニッチの維持にも必須であることが明らかになった。更に、Ebfファミリーの中でEbf3と最もアミノ酸配列が似ているEbf1とEbf3の両方をCAR細胞で欠損させたマウスを解析したところ、若齢(7週齢)で重度の大理石骨病を発症した(図2)。また、1週齢では、骨髄腔は十分に存在し、CAR細胞の形態は正常であったが、CAR細胞でのOsterixの発現とALP活性が著増し、骨髄造血とCAR細胞でのCXCL12とSCFの発現が著減していた。また、同様の表現型がEbf1ヘテロEbf3ホモ欠損マウスでは認められ、Ebf1ホモEbf3へテロ欠損マウスでは認められなかったことから、CAR細胞ではEbf3が主体的に機能することが明らかになった。

清家 正成
図1. CAR細胞でEbf3を欠損させた老齢マウスの骨髄

清家 正成
図2. CAR細胞でEbf1とEbf3の両方を欠損させた若齢マウスの骨髄

 本研究により、CAR細胞は骨髄の間葉系幹細胞であること、転写因子Ebf3は造血幹細胞ニッチを構成するCAR細胞で特異的に高発現し、CAR細胞の骨芽細胞への分化を抑制し、造血の場である骨髄腔の維持と造血幹細胞ニッチの形成・維持に必須であることが明らかになった(図3)。

清家 正成
図3. CAR細胞におけるEbf3の役割

著者コメント

 2014年にCAR細胞と同一の細胞であるレプチン受容体発現(LepR+)細胞が成体骨髄の骨芽細胞と脂肪細胞を供給することが報告されている(Zhou et al. Cell Stem Cell 2014)。しかしながら、この論文ではLepR+細胞で恒常的にCreが発現するLepR-Creマウスとレポーターマウスを用いて細胞系譜解析を行っており、骨芽細胞と脂肪細胞でLepR(Cre)が異所的に発現した可能性を否定できない。また、LepR+細胞が自己複製し他からの供給なく生涯維持される幹細胞集団であることが示されていないため、LepR+細胞が間葉系幹細胞であるか否かは不明であった。一方、我々はタモキシフェンの投与により骨髄でCAR細胞のみがラベルされるマウスを用いて細胞系譜解析を行い、CAR細胞が自己複製能と多分化能を合わせもつ骨髄の間葉系幹細胞であることを証明した。また、本研究により、CAR細胞は成体骨髄の大部分の骨芽細胞を供給すること、CAR細胞の未分化性の維持の破綻は重篤な大理石骨病の発症につながることが明らかになったことから、CAR細胞は骨髄造血だけでなく骨代謝や骨疾患を理解する上でも非常に重要な細胞であると考えられる。また、老齢のEbf3欠損マウスの骨髄では骨が著増し造血が著減したことから、Ebf3の下流で骨形成のみを制御する分子は、高齢者の骨粗鬆症の治療における新しい標的分子となる可能性があるため、その同定は今後の重要な課題であると考える。(大阪大学大学院 医学研究科/生命機能研究科 幹細胞・免疫発生教室・清家 正成)