日本骨代謝学会

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エルデカルシトールは、低リン血症性くる病モデルHypマウスの腎臓においてFGF23抵抗性を惹起し、くる病骨石灰化異常を改善する。

Eldecalcitol Causes FGF23 Resistance for Pi Reabsorption and Improves Rachitic Bone Phenotypes in the Male Hyp Mouse.
著者:Kaneko I, Segawa H, Ikuta K, Hanazaki A, Fujii T, Tatsumi S, Kido S, Hasegawa T, Amizuka N, Saito H, Miyamoto KI.
雑誌:Endocrinology. 2018 July 1;159(7):2741-2758.
  • エルデカルシトール
  • リン
  • くる病

金子 一郎

論文サマリー

 活性型ビタミンD誘導体エルデカルシトール(ED71)は、従来の活性型ビタミンD製剤を上回る骨粗鬆治療効果を発揮する。骨粗鬆症モデル卵巣摘出動物を用いた検討では、骨吸収抑制と骨形成(ミニリモデリング)促進を示し、強力な骨量増強作用が認められた。実際にED71を服用した骨粗鬆症患者では、アルファカルシトールに比べて骨折発生のリスク低下も認められている。一方X連鎖性低リン血症性くる病(X-linked Hypophosphatemia; XLH)は、最も頻度の高い遺伝性低リン血症性くる病である。PHEX遺伝子の変異により、リン利尿因子である線維芽細胞増殖因子(FGF23)が骨から分泌され、腎臓NaPi-2aおよびNaPi-2c発現低下を招くことで尿中リン排泄が亢進している。

 本研究では、XLHモデルであるHypマウスを用いてED71が及ぼすリン代謝への影響とくる病骨改善効果について検討を行った。

 ED71を投与したHypマウスでは、成長遅延が改善し体重増加や大腿骨長の延長が認められた。μCTを用いた骨解析では、ED71投与により、Hypマウス大腿骨における骨密度・骨塩量の顕著な改善、および骨梁面積比率の増加が認められた。骨形態観察では、くる病で乱れた成長板軟骨層がED71投与により回復し、骨石灰化が行われていることが観察された。またED71は、小腸でのリン吸収促進作用を示すが、骨でのFGF23産生を強力に誘導し、腎臓Klotho発現も増加する。したがって、野生型マウスではFGF23作用によるリン利尿が起こり血中リン濃度は維持されていた。一方、Hypマウスでは近位尿細管でのNaPi-2a発現の増加とリン再吸収能の回復がみられ、FGF23抵抗性が惹起されている可能性が考えられた。またリン再吸収閾値TmP/GFRも正常化することを見出し、このメカニズムにはNaPi-2aの足場タンパク質であるNHERF1やEzrin発現の増加も関与していることが示唆された。結果としてHypマウスにおいて血中リン濃度の上昇がみられた。

 以上のことから、ED71はHypマウスにおいてFGF23非依存的にリン恒常性破綻を正常化させ、くる病を改善できるリン代謝制御システムが存在することが考えられる。

著者コメント

 ビタミンDと骨ミネラル代謝の研究は古くから行われてきましたが、まだまだ、リン代謝調節機序の全貌は明らかではありません。本研究を通じて、ビタミンDの魅力に触れることができ、奥が深い学問であることを経験させて頂きました。これからも先人の英知に学びながら、一つ一つ解決していきたいと思います。本研究を遂行するにあたり、終始熱心にご指導を頂きました徳島大学宮本賢一教授、瀬川博子講師、辰巳佐和子助教(現、滋賀県立大学教授)、骨形態解析につきまして多大なるご尽力を賜りました北海道大学網塚憲生教授、長谷川智香助教、またサポートして頂きました分子栄養学分野の皆様、中外製薬株式会社斎藤一史先生に心より感謝申し上げます。(徳島大学大学院医歯薬学研究部分子栄養学分野・金子 一郎)