軟骨細胞に必須の転写因子Sox9の部位特異的エンハンサーを含んだ転写複合体の解明
著者: | Mochizuki Y, Chiba T, Kataoka K, Yamashita S, Sato T, Kato T, Takahashi K, Miyamoto T, Kitazawa M, Hatta T, Natsume T, Takai S, Asahara H. |
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雑誌: | Developmental Cell 46, 1–13 2018 |
- Sox9
- エンハンサー
- STAT3
2018骨代謝学会にて会長の小守先生と一緒に
向かって左:浅原 弘嗣先生、中央:小守 壽文先生、右:自分
論文サマリー
軟骨細胞の分化や発生に必須の転写因子としてSOX9 (SRY-box9) が挙げられる。SOX9遺伝子もしくはその周辺の突然変異により先天性骨軟骨形成異常症 (Campomelic Dysplasia; CD, Acampomelic Campomelic Dysplasia; ACD)を引き起こすことが知られており、患者の遺伝子解析などからSOX9上流約1Mbまでの遺伝子間領域において散在的にいくつかのエンハンサー領域が報告されている。しかしながら体系的にエンハンサー領域や上流遺伝子を同定する手法に関しては困難な点が多く、現在でも完全には解明されていない。
我々は、近年報告された遺伝子改変を可能とするCRISPR (clustered regularly interspaced short palindromic repeats) /Cas9 systemを用いて、 Sox9のプロモーター領域近傍に設計したguide RNA (gRNA) とdeactivated Cas9 (dCas9) をレトロウイルスによりマウスの初代肋軟骨細胞に対し遺伝子導入後、クロマチン免疫沈降法 (ChIP)を施行し、さらにChIP-seqおよび質量解析 (ChIP-MS)を行いSox9を制御するエンハンサーおよび転写因子の同定を試みた。
まずChIP-seqにより同定したSox9上流約1Mbの領域 (RCSE) 近傍に対し、転写抑制複合体であるSIN3Aを含んだdCas9を結合させたところ、肋軟骨細胞においてSox9の発現が有意に低下した。さらにこのRCSEとSox9プロモーターを発現させたLacZ-トランスジェニックマウスでは、肋軟骨特異的な染色パターンを認めた。そしてこのRCSE領域を欠失させたノックアウトマウスを解析したところ、肋軟骨を含んだ胸郭のみの低形成・狭小化を認めた。最後にこのRCSE領域近傍にgRNAを設計し、同様の手法でdCas9を結合させChIP-MSを施行したところ、Sox9の発現を制御する転写因子としてStat3 (Signal transducer and activator of transcription 3)を同定し、コンディショナルノックアウトマウスにおいてそのSox9発現と軟骨発生における機能を見出した。今後、我々の結果がCDやACDの診断・治療につながり、さらには同様の手法を用いることで未知のエンハンサー領域を同定出来る可能性がある。
著者コメント
自分は日本医科大学整形外科に入局し、高井 信朗主任教授から、大学院生として浅原 弘嗣教授の医科歯科大学システム発生再生医学分野へ国内留学させて頂く機会を頂きました。SOX9とその上流遺伝子KCNJ2の遺伝子間領域は約2Mbと非常に巨大であり、その領域内においてSOX9上流1Mb付近に存在する肋軟骨特異的エンハンサーをCRISPR/Cas9 systemを用いて初めて同定出来たことを大変嬉しく思っております。そして基礎研究の知識が全く無かった自分がこのような研究結果を得ることが出来たことに対し、浅原 弘嗣教授はじめ、当研究室の千葉 朋希助手や片岡 健輔大学院生含めた全てのメンバーに対しこの場を借りて感謝の意を表したいと思います。(日本医科大学整形外科/東京医科歯科大学システム発生再生医学分野・望月 祐輔)