mTORC1はSox9の翻訳調節を介して骨格形成の制御に寄与する
著者: | Iezaki T, Horie T, Fukasawa K, Kitabatake M, Nakamura Y, Park G, Onishi Y, Ozaki K, Kanayama T, Hiraiwa M, Kitaguchi Y, Kaneda K, Manabe T, Ishigaki Y, Ohno M, Hinoi E. |
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雑誌: | Stem Cell Reports. 2018 Jul 10;11(1):228-241. |
- 軟骨細胞
- 翻訳制御
- キナーゼ
論文サマリー
骨格は、軟骨を鋳型として形成される内軟骨性骨化と間葉系組織から直接骨が形成される膜性骨化の二種類の機序で形成される。細胞のアミノ酸センサーであるmechanistic Target of Rapamycin complex 1(mTORC1) は種々の細胞でその機能的役割を確認されているが、骨格形成における役割は未だ明らかとなっていない。本研究でmTORC1は、未分化間葉系幹細胞におけるSox9の翻訳制御を介して骨格形成に重要な役割を果たすことを明らかにした。骨格標本を用いた解析により、mTORC1構成タンパク質の一つであるRaptorを間葉系前駆細胞特異的に欠損したマウス(Prx1-Cre;Raptor fl/flマウス)は野生型と比較して四肢の骨の著明な形成不全を起こすことが認められた。胎児マウスLimb bud由来の間葉系前駆細胞培養系では、Raptor欠損細胞はType Ⅱ Collagen、Aggrecanの発現低下に伴って軟骨細胞の分化、成熟が減弱された。また、mTORC1は4EBP1/2タンパク質のリン酸化を介して、翻訳調節因子eIF4EがSox9のmRNA5’末端上に存在するオリゴピリミジンモチーフに結合することを制御し、Sox9タンパク質の翻訳を亢進することを明らかにした。また、間葉系前駆細胞にSox9の導入、もしくは4EBP1/2をノックダウンすることにより、Raptor欠損細胞の軟骨細胞成熟が顕著に回復した。さらに間葉系前駆細胞特異的Raptor欠損マウスにCre発現細胞特異的にSox9を過剰発現させる遺伝子を導入したマウス (Prx1-Cre;Raptorfl/fl;Sox9OEマウス) は、骨格の形成不全が一部回復することが認められた。これらの結果をまとめると、骨格形成におけるmTORC1は、4EBPs/eIF4E/Sox9経路を調節することにより間葉系幹細胞におけるSox9 mRNAのタンパク質への翻訳を更新することで、軟骨分化成熟を増強し、骨格形成に必須の役割を果たすことが明らかとなった。これらの結果からmTORC1/4EBPs/eIF4E/Sox9経路は様々な骨格形成疾患における治療標的となることを示唆している。
著者コメント
私は博士研究員として檜井栄一先生の下で研究活動を実施させていただき、mTORC1と骨格形成の研究の機会を与えていただきました。こちらの研究には大学院時代より関わらせていただきましたが、細胞やマウスの細かな表現型の変化や、様々な観点から細胞内での分子機構を考えることの面白さを学ぶことができました。この研究を通じて檜井栄一先生をはじめとする研究室の皆様方にご協力をいただき、このような形で研究成果を発表することができました。今後も多くの方と協力して研究を行い、その研究が疾患の治療や予防に役立つことを期待しています。(金沢大学薬理学研究室・家崎 高志)