心肥大は血清fibroblast growth factor 23 (FGF23) 濃度を上昇させる
著者: | Matsui I, Oka T, Kusunoki Y, Mori D, Hashimoto N, Matsumoto A, Shimada K, Yamaguchi S, Kubota K, Yonemoto S, Higo T, Sakaguchi Y, Takabatake Y, Hamano T, Isaka Y. |
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雑誌: | Kidney Int. 2018 Jul;94(1):60-71. |
- FG23
- 心肥大
- ADH
左:猪阪善隆教授 右:著者
論文サマリー
血中FGF23濃度上昇と左室肥大は、ヒト観察研究において非常に密接な関係を持っています。これまでこの両者の密接な関係は、(1) FGF23がα-klotho依存性にナトリウム再吸収を促進し高血圧を引き起こす事により生じる左室肥大(EMBO Mol Med 2014; 6: 744-759.)、あるいは(2) 非常に高濃度のFGF23がα-klotho非依存性に心筋細胞においてcalcineurin-NFAT系を活性化する事により生じる左室肥大(Cell Metab. 2015;22:1020-32.)、という2つのメカニズムにより説明されてきました。これらはいずれもFGF23→心肥大向きの因果関係が存在する事を示しています。しかしながら、ヒト観察研究において血圧を補正してもFGF23と左室肥大に密接な関係がある事や、血中FGF23濃度が正常範囲内の者を対象に検討しても血中FGF23濃度が高めの者において左室肥大が多い事は、これら2つのメカニズムだけで両者の密接な関係を説明できないことを示唆していました。
我々はFGF23→心肥大向きではなく心肥大→FGF23向きの因果関係が存在するのではないかと考えました。腎機能は血中FGF23濃度に大きな影響を与える因子であるため、腎機能正常の心肥大モデルとして心筋細胞特異的calcineurin-A活性化マウスを選択し、同マウスでは肥大心筋細胞においてcalcineurin-NFAT依存性にFGF23産生が増加し、骨におけるFGF23発現量が増加していないにも関わらず血清FGF23濃度が高値になる事を明らかにしました。また、大動脈縮窄モデルマウスの肥大心筋細胞においてFGF23産生が増加する事も明らかにしました。心筋細胞特異的calcineurin-A活性化マウスでは血清FGF23濃度が上昇し、腎におけるα-klothoおよびFGF受容体発現レベルは野生型マウスと同等でしたが、心筋細胞特異的calcineurin-A活性化マウスにおいてリン利尿の促進は認めれませんでした。この原因を探るため、我々は心筋細胞特異的calcineurin-A活性化マウスの血清Na濃度が低下しantidiuretic hormone (ADH)濃度が上昇していたことに着目し、ADHがV2受容体依存性にFGF23シグナルを抑制し、腎臓のFGF23抵抗性を生じさせる事を見出しました。
我々の研究成果は、FGF23→心肥大向きだけではなく、心肥大→FGF23向きの因果関係が存在する事を示しました。またADHにより誘導されるFG23抵抗性は、骨ミネラル代謝に新たな治療オプションを提供する可能性があります。
著者コメント
この研究のリバイス実験をしている最中にNHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」の放送が始まりました。以前のNHKスペシャル「人体」シリーズと異なり「体内の臓器が互いに直接情報をやり取りする事で、私たちの体が成り立っている」という臓器連関がテーマとなっていました。FGF23は「体内の臓器が互いに直接情報をやり取りする際に使う分子」の一つであり、本研究では心臓およびADHという二つの側面からFGF23の新たな顔を見ることができたのではないかと思っています。大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学の猪阪善隆教授のご指導のもと、多くの研究室メンバーに支えて頂きこのような成果を得る事ができましたことをことができました。この場を借りて感謝申し上げます。(大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科・松井 功)