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機能的に異なる関節リウマチ関連線維芽細胞サブセットの同定

Functionally distinct disease-associated fibroblast subsets in rheumatoid arthritis.
著者:Mizoguchi F, Slowikowski K, Wei K, Marshall JL, Rao DA, Chang SK, Nguyen HN, Noss EH, Turner JD, Earp BE, Blazar PE, Wright J, Simmons BP, Donlin LT, Kalliolias GD, Goodman SM, Bykerk VP, Ivashkiv LB, Lederer JA, Hacohen N, Nigrovic PA, Filer A, Buckley CD, Raychaudhuri S, Brenner MB.
雑誌:Nat Commun. 2018 Feb 23;9(1):789.
  • 関節リウマチ
  • 線維芽細胞
  • サブセット

溝口 史高
Brigham and Women’s Hospital, Harvard Medical SchoolのBrenner labにて。
左からKamil Slowikowski, Michael Brenner, Soumya Raychaudhuri, 筆者。

論文サマリー

 線維芽細胞の異常は線維化や慢性炎症など様々な病態に関与しており、新たな治療標的細胞として注目されている。しかし、ヒト生体内での線維芽細胞の働きを明らかにすることは困難であり、線維芽細胞研究の大きな障壁となってきた。

 特定の細胞を標的とした治療を開発するためには病的な細胞サブセットを同定することが重要である。しかし血球系細胞などと異なり、線維芽細胞はサブセットの有無すら不明であった。

 このような課題を克服するため、我々は線維芽細胞が重要な病態を担う関節リウマチ(RA)をモデルとし、滑膜組織より線維芽細胞を単離し、個々の線維芽細胞における細胞表面分子と遺伝子の発現を培養を経ずに網羅的に解析することにより、線維芽細胞サブセットの同定と関節リウマチの病態解析が可能になると考え検討を行った。

 まず、これまで線維芽細胞マーカーとして報告されてきた様々な細胞表面分子の発現をフローサイトメトリーにてスクリーニングをした。培養線維芽細胞はいずれの線維芽細胞マーカーも高発現しており均一な細胞集団である一方、新鮮単離滑膜線維芽細胞ではPDPNを始めほぼ全ての細胞に発現が認められる分子が存在する一方で、THY1, CDH11, CD34などの発現レベルは多様であり不均一な細胞集団であることが明らかとなった。そこで汎線維芽細胞マーカーとしてPDPNを用い、更にTHY1, CDH11, CD34の発現パターンに基づいて線維芽細胞をまずは7つの亜集団に分け、それぞれの遺伝子発現を網羅的に解析した。その結果7つの線維芽細胞亜集団は遺伝子発現の類似性から、CD34-THY1-, CD34-THY1+, CD34+の3つの集団に分類できることが明らかとなった。この3つの集団がサブセットの分類として妥当であるかを検証するため、384個の滑膜線維芽細胞の遺伝子発現を1細胞レベルでRNA-seqにて網羅的に解析し、遺伝子発現パターンのみに基づいてバイアスなしに細胞を分類した。その結果、滑膜線維芽細胞はやはり3つに分類され、その分類はCD34とTHY1のタンパク発現による分類と高い精度で合致することが示され、サブセットの分類として妥当であることが示された。

 RAと変形性関節症(OA)との差異を調べたところ、RAではCD34-THY1+サブセットが血管周囲に増生し、その割合は滑膜組織への炎症細胞浸潤や関節超音波検査による滑膜組織の過形成と相関が認められた。CD34-THY1+サブセットはRANKLを始めとする特定のサイトカインやプロテアーゼを高発現しており、骨破壊や組織傷害に関与するサブセットと考えられた。

 このRA関連サブセットの制御機構を明らかにすることにより、新たな治療戦略の開発へとつながることが期待される。本手法は線維芽細胞が病態に関与する様々な疾患の病態解明に応用可能と考えられる。

著者コメント

 本プロジェクトは、アイデア自体は以前から温めていた一方で、どのように取り組むべきかをしばらく決めかねていたものであった。2012年末にMichael Brenner先生の研究室に移動しBrenner先生と様々な話をする中で多くのヒントを頂き、この環境なら長年の課題を解決できると思い取り組むこととした。プロジェクト案を初めて研究室の皆にプレゼンをした時の反響はある意味、想像以上であった。面白いと興味を引いた一方、線維芽細胞を生体内の状態を保持した状態で単離・解析するための手法を一から条件検討し直すというプランの煩雑さや、入手が困難となりつつあるRA組織を対象にする点など、プロジェクトとして手間とリスクが高いという意見も多かった。そのような中、まずはやってみろと背中を押してくれたのがBrenner先生であった。研究を進める過程での障壁も多かったが、常に建設的なアドバイスをくれ、バイオインフォマティクスを専門とするDr. Soumya Raychaudhuriと同研究室のKamil Slowikowskiをはじめとする様々な共同研究者の紹介や研究費のサポートをしてくれた。今回の論文の成果は当初描いていたプランを振り返るとまだ道半ばのものではあるものの、研究を進める中で膨らんだ夢はAccelerating Medicines Partnershipのプロジェクトに発展し解析が進められている。

 本研究を通し、共同研究の力や、研究者としてどのように医療の進歩に貢献していくのかなど、多くのことを学んだ。今後も病態解明のための方法論やコンセプトを提案できるよう、仕事を続けて行きたい。(東京医科歯科大学大学院 膠原病・リウマチ内科学・溝口 史高)