日本骨代謝学会

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Msx2は発生早期の顎顔面の骨格形成において領域特異的な間葉系前駆細胞を標識する

Msx2 Marks Spatially Restricted Populations of Mesenchymal Precursors
著者:Sakagami N, Matsushita Y, Syklawer-Howle S, Kronenberg HM, Ono W, Ono N.
雑誌:J Dent Res. 2018 Oct;97(11):1260-1267.
  • Msx2
  • 間葉系幹細胞
  • 骨芽細胞

坂上 直子
共著者(前列左端から 筆者、 Wanida Ono助教授、小野法明助教授 後列左端 松下祐樹先生)

坂上 直子
共著者(左から Sarah Syklawer-Howle、筆者、小野法明助教授)

論文サマリー

 Msx2はBMPシグナルの標的遺伝子であり、骨芽細胞分化に必要不可欠な転写制御因子であるRunx2およびOsterix(Osx)の発現を制御する。Msx2 欠損マウスでは骨芽細胞数の減少に伴う骨形成の低下および頭蓋骨の骨欠損が認められ、またヒトにおいてもMsx2 はボストン型頭蓋癒合症の原因遺伝子として同定されており、その病態においてBMPシグナルによるMsx2の発現の制御が関与することが明らかとされている。このことよりMsx2は、顎顔面頭蓋領域において未分化間葉系細胞から骨芽細胞分化過程において重要な役割を担うことが示唆される。

 本研究では、Msx2の遺伝子プロモーターにより標識される細胞に関して、その細胞系譜を追跡する実験を行い、 Msx2陽性間葉系細胞がどのように顎顔面頭蓋領域における骨格系の形成に寄与するかを調べた。さらに転写因子Osxの遺伝子プロモーターにより標識される細胞の運命についても同時に解析を行い、Msx2陽性細胞のそれと比較検討した。

 Msx2の発現は、胎生10.5日齢前後の下顎隆起および頭蓋原基後部の間葉系細胞に認められた。これらのMsx2陽性細胞の子孫細胞は、5日後の胎生15.5日齢において、メッケル軟骨や頭蓋後部の一過性にみられる軟骨細胞およびその周軟骨膜細胞、さらに骨芽細胞といった複数の骨格系の細胞に寄与した。一方、Osx陽性細胞は、胎生12.5日齢前後で出現し、その子孫細胞は胎生15.5日齢においてメッケル軟骨周囲および頭蓋後部の周軟骨膜細胞と骨芽細胞のみに分化した。すなわち、Msx2で標識される細胞はOsx2で標識される細胞よりも発生段階において早期に出現し、さらに顎顔面領域の間葉系細胞のうちMsx2を発現する細胞は、Osxを発現する骨芽細胞前駆細胞よりも広範囲の骨格系の細胞に寄与する分化能を有することが明らかとなった。このことより、顎顔面領域の発生初期段階におけるOsx陽性傍軟骨膜細胞の一部は、Msx2で標識される細胞から由来している可能性が示唆された。さらに、胎生10.5日齢でMsx2陽性を示す細胞の子孫は、生後においても軟骨細胞、骨芽細胞、縫合間葉系細胞に分化し、Osx陽性細胞よりも多くの細胞系譜への分化能を示した。以上の結果より、Msx2で標識される細胞は、顎顔面の骨格形成初期において、領域特異的な早期の間葉系前駆細胞としての挙動を示すことが明らかとなった。

坂上 直子

坂上 直子

著者コメント

 本研究は、ミシガン大学歯学部矯正小児歯科修士課程の大学院生として当研究室に配属されたSara Syklawer-Howleの学位研究の一部を含んでいます。彼女とは、様々な研究手法を一緒に学びながら研究に取り組みました。ミシガン大学歯学部小野研究室3年間お世話になりましたが、これまで研究を進めるにあたり、暖かいご指導と素晴らしい環境を与えてくださった小野法明先生、支えてくださった共著者の先生方や他のラボメンバーに心より感謝申し上げます。(ミシガン大学歯学部矯正小児歯科・坂上 直子)