日本骨代謝学会

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マウスBP製剤関連顎骨壊死様病態は,抗癌剤の濃度依存性にその発現率が増大する

Prevalence of bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw-like lesions is increased in a chemotherapeutic dose-dependent manner in mice
著者: Kuroshima S, Sasaki M, Nakajima K, Tamaki S, Hayano H, Sawase T.
雑誌:Bone. 2018 May 2.112:177-186. doi: 10.1016/j.bone.
  • ビスフォスフォネート製剤
  • シクロフォスファミド
  • BP製剤関連顎骨壊死

黒嶋 伸一郎

論文サマリー

 2003年,注射用BP製剤使用患者において,抜歯に伴うBP製剤関連顎骨壊死(BRONJ)が初めて報告された.BRONJの発生頻度は低いものの,一旦発症すると口腔関連QOLを有意に低下させる.BRONJは,多発性骨髄腫や乳がんに罹患している患者で最も発現頻度が高いことが報告されているが,彼らはBP製剤と抗癌剤の併用投与を受けている場合がある.アルキル化剤であるシクロフォスファミド(Cyclophosphamide:CY)は,多発性骨髄腫に罹患する患者の治療薬である.ところが,CYの単独投与やCYとBP製剤の併用投与が抜歯窩創傷治癒に与える影響は分かっておらず,ましてや抗癌剤の濃度が抜歯窩創傷治癒に与える影響は不明である.本研究は,CY濃度の違いがマウス抜歯窩治癒に与える影響,ならびに濃度を変化させたCYとBP製剤の併用投与がマウス抜歯窩の創傷治癒に与える影響を明らかにすることを目的とした.

 C57B6/Jマウスを使用した.低濃度CY(50 mg/kg:CY-L),中濃度CY(100 mg/kg:CY-M),高濃度CY(150 mg/kg:CY-H),ならびにBP製剤[ZA:0.05mg/kg]を単独投与した.これら3種類の濃度のCYとZAの併用投与も行った(CY-L/ZA,CY-M/ZA,CY-H/ZA).薬剤の投与期間は7週間で,薬剤投与開始3週間後に上顎両側第一臼歯を抜歯し,その4週間後に屠殺をした.抜歯窩創傷治癒の評価は,マイクロCT撮像,各種組織染色,血管に対する免疫染色を行って,3次元的構造解析,組織形態学的解析,ならびに免疫組織化学的解析をそれぞれ行った.

 その結果,ZAの単独投与はBRONJ様病態を惹起しなかった.一方CYの単独投与では,抜歯窩の開放はほとんど起こらなかったが,CY濃度依存性に骨性治癒が遅延した.一方,CYとZAの併用投与は,CY濃度依存性に創部の開放頻度を増加し,硬軟組織治不全を伴うBRONJ様病態を惹起した.興味深いことに,CYの濃度に関わらず,CYの単独投与で抜歯部軟組織の血管新生抑制が認められたがBRONJ様病態は惹起されず,血管新生抑制が認められたCY-M/ZAとCY-H/ZAではBRONJ様病態が惹起された.以上より,高濃度CYは,ZAとの併用投与をすることによりBRONJの発症に関与すると考えられた.抜歯部軟組織における血管新生抑制,破骨細胞抑制,ならびに免疫抑制などが複合して,BRONJの病因に関与しているかもしれない.

著者コメント

 経口BP製剤使用患者におけるBRONJの発現頻度は極めて低いが,注射BP製剤使用患者におけるBRONJの発現頻度は決して低くはなく,抗癌剤とBP製剤が併用投与されている悪性腫瘍患者や多発性骨髄腫の患者などで多く認められる.一方,歯科医師は,抗癌剤やBP製剤が抜歯窩創傷治癒に与える影響を科学的に十分理解できていない.本研究では,抗癌剤の単独投与が抜歯窩の骨性治癒を遅延させ,抗癌剤とBP製剤の併用投与は抗癌剤の濃度依存性にBRONJ様病態を惹起することを報告したが,実際の臨床現場でも患者の抗癌剤濃度を十分に確認し,抜歯を含む侵襲性歯科治療に慎重に対応する必要があるだろう.今後もBRONJの病因や病態を検索し,その全容解明に尽力したい.(長崎大学生命医科学域 口腔インプラント学分野・黒嶋 伸一郎・佐々木宗輝)