日本骨代謝学会

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後縦靭帯骨化症の原因タンパク質の発見とモデルマウスの作製によるメカニズムの解明

Ubiquitin-dependent proteolysis of CXCL7 leads to posterior longitudinal ligament ossification.
雑誌:PLoS One. 2018 May 21;13(5):e0196204.
  • Villanueva bone
  • 骨形態計測
  • 後縦靭帯骨化

津留 美智代

論文サマリー

 ヒトの脊椎骨は、上から頸椎7椎、胸椎12椎、腰椎5椎、仙椎5椎が縦に並んでおり、靭帯組織(前縦靭帯、黄色靭帯、後縦靭帯など)が支えとなり、脊椎の運動可動域を得ているが、各靭帯が骨化する前縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症、後縦靭帯骨化症が存在し、総称として、脊柱靭帯骨化症と言い、厚生労働指定難病となっている。その中でも、後縦靭帯骨化症は、解剖学的に、後縦靭帯が椎体と脊髄の間にあり、手術による摘出は、著しく、困難であるため、新たな医薬品開発に繋がる治療方法の開発が急務である。後縦靭帯骨化症の特徴として、日本では、平成28年度38,039人が特定医療費支給者数に認定され、男性が女性の2倍、発症年齢は、40歳以降、合併症は、糖尿病、肥満があり、四肢機能の低下を伴い、QOLの低下が著しい疾患である。

 我々は、後縦靭帯骨化症と健常者の血清プロテオミクスを行い、健常者と比較し、後縦靭帯骨化症の患者血清に1つの減少または、欠損しているタンパク質が存在することを突き止め、HPLCによる精製後、アミノ酸配列を決定した結果、走行性サイトカイン、ケモカインCXCL7であった。このCXCL7のノックアウトマウスを作製した結果、徐々に多尿多飲、高血糖、皮下脂肪、内臓脂肪の増加が確認され、生後4ヶ月から跛行や四肢機能の低下がみられ、生後8か月後、骨形態計測を実施した結果、海綿骨と両側(脊髄側、腹側)において、海綿骨では、石灰化速度が低値で、全体的に低代謝回転骨の状態であることが判明し、これは、ヒトの異所性骨化の症例と等しいことが解かった。皮質骨では、脊髄側において皮質骨幅の菲薄化が見られた。Villanueva bone染色において、後縦靭帯組織の中に骨化している組織を確認した。次に、欠損する原因を調べるために、SNP、DNAエクソンを調べたが、異常はなく、マイクロRNA解析の結果、miR-340の高値が確認できたが、後縦靭帯組織のプライマリーセルによるCXCL7の分解は確認できなかった。次に、この後縦靭帯骨化症のマウスと健常マウスの後縦靭帯組織のプライマリーセルのリン酸化プロテオミクスを行った結果、E3ユビキチンリガーゼ、MAP3K(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼキナーゼ)、PKC(プロテインキナーゼC)のリン酸化を確認した。

 ケモカインCXCL7は、白血球に存在していることから、後縦靭帯骨化症の患者白血球のユビキチンK48鎖のプルダウンを行い、CXCL7のイムノブロットを行った結果、CXCL7とその近位2から3個のポリユビキチン化が確認できた。

 本研究の結果は、後縦靭帯骨化症の原因タンパク質は、CXCL7の欠損にあり、それは、ユビキチンプロテアソームによる選択的分解が起こっていることを示した。

 

津留 美智代
 図1 イメージ図  

 

津留 美智代
 図2 後縦靭帯骨化症モデルマウスVillanueva bone染色 後縦靭帯組織中に骨化が確認できる。  

 

津留 美智代
 図3 後縦靭帯骨化モデルマウスの骨形態計測、膜性骨化組織像  

著者コメント

 本研究には、内閣府新興分野人材養成(申請者)、厚生労働科学研究補助金、科学研究費助成事業からの支援をいただきました。
 疾患プロテオミクスを開始したのは、約20年前で、根治不可能な疾患の原因タンパク質を探し、医薬品開発に展開することを提言し、内閣府プロジェクトに採択され、本研究の基盤を作りました。ヒトの血清中には、数万個のタンパク質が存在し、その中から、健常者との違いを探していきます。疾患特異的タンパク質を確定するには、患者母集団を数式で考え、統計学的分析でタンパク質を選択します。この段階で、概ね新たなタンパク質が確定し、立証研究が始まります。ノックアウトマウスに後縦靭帯骨化の発現が確認出来た時は、とても嬉しかったと同時に、なぜ、欠損するのか?まぜ、後縦靭帯が骨化となるのか?の次の研究を行い、一つ一つ実験での検証を行っていきました。
 現在、我国には、330疾患の難病があります。一つでも多くの原因タンパク質を探し、医薬品開発に繋がる研究を行い、克服研究を行っていきたいと思います。
 本研究は、伊藤明美先生(伊藤骨形態計測研究所)の御指導をいただきました、心から御礼申し上げます。(久留米大学学長直属疾患プロテオミクス遺伝子治療・津留 美智代)