Cthrc1はWaif1を介してカップリングを制御する
雑誌: | J Bone Miner Res. 2018 Apr 6. doi: 10.1002/jbmr.3436. |
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- カップリング機構
- 骨芽細胞
- 骨リモデリング
論文サマリー
我々は、骨吸収から骨形成への共役(カップリング)が骨リモデリングの基本原理であり、加齢に伴う骨構造および機能の脆弱性をカップリング機構の低下が主な原因であると考え、骨吸収を実行する破骨細胞から分泌されるカップリング因子の同定と機能解析を行ってきた。すなわち、マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析により骨吸収時の破骨細胞が特異的に発現・分泌する因子としてCollagen triple helix repeat containing 1 (Cthrc1)を見出し、ノックアウトマウスと種々のアッセー系を用いてカップリング因子として働くことを報告したが、その分子メカニズムについては未解明であった。
そこで、Cthrc1の受容体の同定とシグナル伝達機構の解明を試みた。Flow cytometerを用いた解析からCthrc1はストローマ細胞株ST2を含む間葉系細胞の細胞表面に結合することが分かっていたので、Cthrc1のアフィニティーカラムを用いてST2細胞株の膜画分からCthrc1に結合する膜タンパクを分離・精製し、Wnt-activated inhibitory factor 1(Waif1/Tpbg)を見出した。Waif1は一回膜貫通型タンパクであり栄養膜に発現するTrophoblast glycoprotein と同一分子であること、およびWntシグナルの制御に関わる膜タンパクとしても報告されていたが、生体内における機能については不明であった。
Waif1の発現は、組織では骨および脳に、細胞レベルでは骨芽細胞や間葉系ストローマ細胞株に強い発現が認められた。また、生化学的アプローチおよびFACS解析によりWaif1がCthrc1と直接結合することを明らかにした。さらに、Cthrc1による骨芽細胞分化促進活性は、Waif1を介してPKCδ、ERK1/2およびRac1の活性化によることが明らかとなった。
Waif1の生理機能を明らかにするために骨芽細胞系譜特異的Waif1コンディショナルノックアウト(cKO)マウスを作製したところ、RANKLの発現低下に伴う骨吸収の低下及び骨形成の機能低下による低代謝回転型の高骨量を発症することが分かった。 次に、RANKL投与によるカップリングを評価するアッセイ系を用いてcKOマウスを解析したところ、RANKL投与10日後の最低骨量は野生型と同程度だったが、cKOマウスでは骨吸収後に見られる骨形成が障害され、2ヶ月後の骨量は野生型より顕著に低下した。また、この結果は破骨細胞特異的Cthrc1 cKOマウスと同様の表現型であることからWaif1はCthrc1のカップリング機構におけるシグナル伝達に必須な因子であることが実証された。
図 カップリングを制御する"Waif1を介したCthrc1による骨芽細胞分化シグナル"
著者コメント
2012年に私がラボのメンバーに加わったときには、竹下淳先生らはすでに遺伝子発現解析によるCthrc1の受容体分子探索に取り組んでいましたが、候補となる分子の同定には至っていませんでした。Cthrc1は補体C1qファミリーに属する分泌タンパクですが、タンパク質の構造や既存の概念にとらわれず「生化学的にアプローチしてはどうか」、という先生からのアイデアと大学院時代に培ったタンパク精製技術が発見へのターニングポイントであったように思います。In vivoの実験は主に小原さんが推進してくれ、池田恭治先生と多くの方々の協力を得て、カップリング機構の一端を明らかにすることができました。(Centro Nacional de Investigaciones Oncológicas, Madrid, Spain・松岡 和彦)